第105話 バルルマヌルで、再び仲間集め


 「ダメです」


 「なんで?」


 「三年間も自国を放置する教皇が、どこにいるんですか」


 「──ここに。でも何かあったら、思念伝播ですぐに連絡できるじゃん」


 「いいですか? 教皇様は自国にいてこそ、意味があるのですよ」


 今、何をしているかと言うと、僕とピノネロが執務室の会議室で、話し合いをしている。内容は僕がバルルマヌルで三年間ほど、新戦力である仲間集めの為に、国を留守にすることだ。


 「そもそも、戦力なら充分過ぎるほど集まったではないですか」


 「その事なんだけど……足りな気がする。この戦力で、マギアヘイズとダミアンヘイズの両国を相手にしたら、すぐに倒されて我が国は滅亡すると思うんだ」


 「その根拠はどこに?」


 「……なんとなく」


 ピノネロは嘆息して続けた。


 「なんとなくで、三年間も国を空けられたら困ります。それに1億1000万匹も、アークデーモンを手に入れたばかりじゃないですか」


 「それなんだけどさ……。多分アークデーモンも瞬殺されると思う」


 「教皇様。アークデーモンは伝説級の悪魔ですよ。しかも1億1000万匹もの伝説級の悪魔が仲間になって、まだ足りないのですか? それに、バハムートさんから聞きましたよ。ドラゴンの里をマギアヘイズから救ったと」


 僕は暫く思案してから、ピノネロに伝えた。


 「あの戦いは確かに勝った。けど、なんか手応えがないんだよな。きっとあの戦いで、マギアヘイズは10パーセントも戦力を使用して無いと思う」


 「その根拠はどこに?」


 「……なんとなく」


 ピノネロは話しにならないと言った表情で、執務室の会議室から出ようとしたが、僕の言葉で今までの空気が変わった。


 「ピノネロは、マギアヘイズの実力者が何人いるか知ってるの?」


 「知りませんけど……」


 「確かにテイゲンもドレイクも強かった。だけど、これは戦った者にしか解らない感覚なんだけどさ、あの二人……本気を出していなかった。もし本気を出していたら、僕は殺されていただろうね。エルもアグニスも。あれはドラゴンの里の実力を確かめる為の戦いで。ドラゴンの里を壊滅させる攻撃では無かった気がする」


 「教皇様は、実際に戦われて、そう思ったのですね。では、私からも質問があります。教皇様はマギアヘイズの実力者は、どれほどいると思われているのですか?」


 またしても、思案してピノネロに答えた。


 「きっと。10人以上かな。それに初めてテイゲンとドレイクの二人と闘って思った事は、あの二人……実力の20パーセントも出して無い気がした。だから、今の我が国の戦力では対抗できないと思う」


 ピノネロは現実主義者だ。僕の考えはいつも、その場のノリだが、合理的に考えたノリなのを、ピノネロはよく知っている。


 「教皇様が、そこまで言うのでしたら。仕方ないですね。確かに私はテイゲンとドレイクの力を知りませんが、実際に両名と戦った経験のある教皇様が、そこまで言うのでしたら……しかし三年ですか……」


 「だから、思念伝播で何かあったら、すぐに戻ってくるから。これは我が儘で言ってるんじゃなくて、本当に今の戦力じゃ国家が滅亡すると思う」


 「はぁ……教皇様の性格はよく知ってます。何よりも、その勘の鋭さを。解りました。ですが、何かあったらすぐに思念伝播で、こちらから連絡しますので、すぐに戻って来てくださいよ。それと、教皇様が不在の間、誰が代理をするのですか?」


 「それはもちろん、ピノネロ君」


 ピノネロは溜息を吐きながら、やっぱりと言った表情をしている。


 「解りましたよ。ですが、早めに帰って来れそうなら、帰って来て下さい」


 「マジで? ありがとう。じゃあ僕はもう行くね。後の事は宜しく」


 まあ、本音を言うと、三年でも足りないぐらいなんだけどさ。

 だが無理だと思ったピノネロが、まさか許可するとは思わなかった。


 最悪、無理にでもバルルマヌルに行こうと思っていたが、これで自由に行けるようになった訳だ。


 そして、僕はすぐに執務室の会議室内で、転移魔法陣を作りバルルマヌルまで直行した。


 エルとアグニスを連れて行かなかった理由は、自分の実力も試したかったからだ。


 自分一人なら、二人に気を使う必要が無いので、今の全力が出せる。

 まあ、二つの考えが最初はあったのだが、結局バルルマヌルで再び新戦力を集める事にした。


 因みに、もう一つの考えは、三年間アランに稽古をつけてもらって、サージスキルである波動思念を出来る限り、体得する事だったが、僕は以前のように、バルルマヌルで新戦力を集める方を選んだ。


 狙うは神代級を超える星創せいそう級の魔獣や魔人だ。

 それにもう、どんな奴を仲間にするかは決めてある。後は、僕が仲間に出来るかだ。


 まあ、やってみないと、始まらないってね。


 だが、今回は中々ダンジョンが見つからないな。


 僕は飛翔幻舞ひしょうげんぶのスキルで、上空からバルルマヌルの大砂漠にあるダンジョンを探していると、片手に大木のような棍棒を持ち、頭に一本の角を生やした単眼の青い巨体の魔人こと、サイクロプスを見つけた。


 大きさは、タイタンの一回り──いや、二回りは大きい。


 しかも、その近くを漆黒の狼であるフェンリルが走っている。


 これは幸先が良いな。僕が狙っていた魔人や魔獣が、ダンジョンに入る前に見つかるとは。


 早速、僕は地上に降りて、この魔人と魔獣に思念伝播で仲間として勧誘した。もちろん万目魅了ばんもくみりょうの権能は行使している。


 が、万目魅了が通用しない。


 それどころか、サイクロプスもフェンリルも僕に襲いかかってきた。


 なるほど、僕が狙ってただけの事はある。力もそうだが、こいつら──魅了無効のスキルを持ってるな。


 おそらく、僕がこれから仲間にしようと思っている、魔獣や魔人たちも魅了無効のスキルを持ってるだろう。


 ここは、魔物のルールに則って、どちらが格上か力を示して仲間にしないと。


 そうと決まれば、僕も臨戦態勢を取らなければ。


 さぁ、二対一の勝負だが、来るなら相手になってやる!

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