第96話 バルルマヌルで、祭りの食材集め


 やっとテネブリスの奴から解放された。

 これでやっと祭りの準備が出来るが──まずは食材集めからだよな。


 しかも、テレサヘイズの国民全員分となると……考えたくない……。


 何だか、ミストスで食材集めをした時を思い出すな。

 だが今回は30万人分では無い。その100倍ぐらいの量を、集めなければいけないのだ。


 そんなに集めたら我が国の生態系が崩壊する。なので今回は、懐かしのバルルマヌルのダンジョンで、食材集めをしようと思っているのだが……あの頃はまだ、大改革の前だったので四獣四鬼しじゅうしきと一緒にミストスの食料を集めたが……アイツら皆、仕事中なんだよな……。


 となると、悪魔か? だがソルもルーナも手加減を知らないから、食材を見つけても強力な権能を使って、せっかくの食材が爆散しそうなんだよな。


 テネブリスは……今やっと、アイツからの束縛から解放されたばっかだし、連れて行くとまた面倒な事になりそうだ。


 後は──エルとアグニスか……アイツらも仕事中だし──ん? 確か、六怪ろっかいの仕事って空輸担当だったな。


 祭り用の食材調達も、立派な仕事内容になるんじゃないか? まあ、食材は全部インベントリに入れるんだけど。はっきり言って僕だけじゃ間に合わないし、今回は六怪と一緒に食材を集めよう。


 僕は思念伝播を使い、ファフニールに教皇宮殿の中庭に、六怪を全員集合させるように伝えた。


 いや〜、こんな事もあろうかと、教皇宮殿を建設する時に、六怪と四獣四鬼が全員集まっても、まだ余裕があるぐらい巨大な中庭にしておいて正解だった。


 おっ、早速来たな。そう言えば、執務室で会議する時は、いつも擬人化させてたから、本来のドラゴンの姿を見るのは久々だ。


 『お待たせしました! ピーター様』


 六体のドラゴンが翼を激しくはためかせ、中庭に降りてくる。

 その逆巻く猛風に、教皇宮殿の中庭だけ大気が荒れ狂っていた。


 考えてみれば当たり前の話しだ。六体もの巨大なドラゴンが、一斉に同じ場所に降りてくれば、そりゃ中庭だけ猛風に襲われるのは当然だ。


 しかし、六体のドラゴンが全員集まるのは、エンシェントドラゴンと新国家名の話しとかを、した時以来か。


 ファフニールに、ヒュドラに、リンドブルムに、バハムートに、ニーズヘッグに、ティアマト。やっぱりドラゴンって見てるだけで威圧感が凄いな。


 僕はドラゴンたちに、集まってもらった事を説明すると、全員承諾してくれた。幸いな事に、今日の空輸は終わっていたらしく、残る仕事は、上空からの治安監視の仕事だけらしい。


 まあ、治安維持なら、他にも頼んでる魔獣や魔人がいるから、一日ぐらいなら平気だ。なので、僕は急ぎバルルマヌルまでの転移魔法陣を作り、六怪と一緒にバルルマヌルの大砂漠まで瞬間移動した。


 バルルマヌルに転移し、まず僕が六怪の全員にお願いしたのは、食材の鮮度を保つ為に、見つけた魔物は全てブレスで、氷漬けにして欲しいと伝えた。


 さてと、ここからが本番だ。早くダンジョンを探さなくては……ん? あの黒い霧は──間違い無いダンジョンの入り口だ。最初は探すのにも手間がかかると思っていたが、これは運がいい。


 「皆! あの目の前にある黒い霧が、ダンジョンの入り口だ! 食材を狩りまくるぞ!」


 そう言うと、ファフニールから質問された。


 「今回は擬人化しなくても宜しいのですか?」


 「当たり前じゃん! 擬人化したらブレス吐けないでしょ!」


 「我々は擬人化しても、ブレスを吐くことは可能ですが」


 意外過ぎる返事だった。だが擬人化した六怪がブレスを吐く姿は、あまり見たく無い……。


 「まあ、今回は擬人化しないで、本来のドラゴンの姿で頼む」


 「承知しました」


 そして、ダンジョン内に入る僕と六怪。いや〜この雰囲気、懐かしいなぁ〜。まあ、魔素溜まりから生まれたダンジョン内だし、魔物を狩り尽くしても、生態系を壊す事にはならないだろう。


 それに、やっぱりダンジョン内は、外の大砂漠と違って涼しいな。まあ、ちょっと雨上がりみたいにジメジメしてるけど。


 それよりも、昔は無かった権能を使って、魔物を探すぞ。

 僕は気配感知の権能を行使して、魔物の気配を探した。すると、ダンジョンの奥で300万匹のキラーコブラの群れを感知したので、急ぎ向かった。


 奥まで行くと、まるで地面が意思を持つかのように、蠢いていた。その正体はキラーコブラの群れである。


 しかし量が多いな。


 「皆。ブリザードブレスで、このキラーコブラの群れを全部凍らせてくれ」


 『解りました!』


 うーむ、六体のドラゴンが一斉にブリザードブレスを吐く姿は、実に壮観なのだが……これでは時間がかかり過ぎるな。


 まあ、取り敢えず氷漬けになったキラーコブラ300万匹は、インベントリに全部入れてと。


 「なあ皆。このままだと時間がかかるから、全員、バラバラに行動して魔物を狩ってくれ。それで狩った魔物は、思念伝播で僕に教えてくれれば、すぐに回収しに行くから」


 『承知しましたピーター様!』


 そして、頼りになる六体のドラゴンは、全員バラバラになってダンジョン内で狩りを始めた。


 と言うか、僕も狩りに参加しないと。


 おっ! また感知したぞ。って、上?

 僕が上を見ると、壁に張り付いた50万匹のキングスパイダーがいた。


 デカいなあ……と言うか食えるのか? クモだぞ。


 【伝えます。キングスパイダーは湯で煮ると、カニのような味になります】


 は? カニ? じゃあ狩らないと。てか、至高者さんってカニ食べた事あるの?


 【────】


 黙っちゃったよ。余計なことは考えるなって事かねぇ。それじゃあ炎殺氷結えんさいひょうけつの権能を使うか。でも試したい事もあるんだよね。


 至高者さん。魔王竜に進化した時に、魔王竜之暴息って言うアルティメットスキルを獲得したけど、ブリザードブレスよりも強力なブレスとかある?


 【伝えます。魔王竜之暴息の権能の一つに、ブリザードブレスが進化した、アイスエイジブレスがあります。さらに魔王竜に進化した事で、両手の掌からもブレスを出すことが可能になりました】


 掌からブレス……それってもうブレスじゃなくて魔法なんじゃ……まあ、いいや。じゃあ両手の掌からアイスエイジブレスを出すか。


 僕は天井に張り付いている、50万匹のキングスパイダーに両手の掌を翳し、言い放った。


 「アイスエイジブレス!」


 すると、両手の掌から、ブリザードブレスの比ではない異常なほどの冷気のブレスが放出された──と言うか、これをブレスと呼んでいいのだろうか。


 放出された瞬間に、大気全体が絶対零度に包まれ、銀世界のレベルを遥かに超えた、岩までも氷結している世界が僕の目の前に広がっている。


 呼吸する息まで瞬時に凍らせるアイスエイジブレスは、まさしく、その名の通り、辺り一面を氷河期に変えてしまった。


 これ、確かに凄いけど……50万匹のキングスパイダーが全て氷漬けになり、天井に別の意味で張り付いている。


 まあ、そんな時は、空想言語実現の権能の出番だな。


 「天井に張り付いている50万匹のキングスパイダーよ、全てインベントリの中に入れ」


 僕の言葉と同時に、掃除機で吸われるようにして、天井の壁に氷漬けになった、50万匹のキングスパイダーが瞬時にインベントリに入った。


 よし。これで50万匹のカニさんゲットだな。


 (「ピーター様。100万匹のエビルウルフを発見したので、全て凍らせました」)


 (「おっ! その声はヒュドラか! でかした! すぐに行く!」)


 僕がすぐにヒュドラがいる場所まで行くと、氷漬けになった100万匹のエビルウルフの群れがいた。


 それを全てインベントリに入れたが──流石にこれだけの量を狩り尽くしたので、第一階層の魔物の気配が消えてしまった。


 なので僕は思念伝播で、第二階層に移動するように、六怪に伝えた。


 僕も駆け足で階段を見つけ、第二階層に行った。


 おお! 第一階層よりも魔物の気配がするぞ。それも異常な数だ。これは助かる。だが本命は、タイタンぐらい大きな、マウンテンコブラ級の魔物を出来れば1万匹ぐらいは狩りたい所だが、ここは洞窟内だからな……無理だよな。


 (「ピーター様。ご相談があります」)


 (「おっ! その声はニーズヘッグか! どうした?」)


 (「マウンテンオークの群れを10万匹見つけましたが、余りに巨大なので私だけのブレスでは氷漬けに出来ません。なので六体全てのドラゴンを集めても宜しいでしょうか?」)


 (「え? そんな事? 大丈夫だよ」)


 (「解りました。では、失礼します」)


 マウンテンオークか……もしかしてマウンテンコブラよりも大きいのかな? と言うかよく見ると、この第二階層は奥に行けば行くほど、巨大な洞窟になっている。もしかすると……ゲットできるのか? マウンテンコブラ級の魔物が。


 僕はそんな事を考えながら、ニーズヘッグから思念が飛んできた場所まで行った。すると──仰天するほど巨大なオークの群れが、10万匹も氷漬けになっていた。


 これは凄いな……この巨大さで、この数は、ニーズヘッグのブレスだけでは氷漬けに出来ないのも、頷ける。


 早速、インベントリにマウンテンオーク10万匹を入れた。


 これで、かなりの魔物を氷漬けにしてゲットしたが。3000万人分の量としては、これで足りるのかな?


 【伝えます。3000万人分の食材の量は、現在90パーセント集めることに成功しています】


 なるほど。残り10パーセントか。


 (「「「「ピーター様。50万匹のデッドリークロコダイルを発見したので、全て氷漬けにしました。ですが、湖まで全て凍らせてしまい、回収できませんが、どうしますか?」」」」)


 (「その声は……て言うか全員息ピッタリで話すから、誰だか解らん!」)


 (「「「「失礼しました。ファフニールと、リンドブルムと、バハムートと、ティアマトです」」」」)


 (「お前ら本当に息ピッタリだな。そんな事よりも、でかした! 湖まで凍っていても大丈夫だ! すぐそっちに行く!」)


 僕は駆け足で、思念伝播の思念が飛んできた場所まで行くと、ダンジョン内に途轍もなく大きな湖が氷漬けになっていた。こんな大きな湖を氷漬けにするなんて……まあ、四体同時にブレスを吐いたら湖まで凍るか。


 そして氷漬けになった湖を見て、困り果てている、ファフニールと、リンドブルムと、バハムートと、ティアマトが佇んでいた。


 「皆よくやってくれた! 助かったよ!」


 「「「「あっ! ピーター様!」」」」


 「お、お前ら……本当に息ピッタリだな。まあいいや。後の事は僕がやるから、この場はまかせろ! お前らは引き続き魔物を探してくれ!」


 「「「「解りました!」」」」


 そう言うと、全員がまたバラバラになって、ダンジョン内の魔物を探しに行った。


 さてと。んじゃやるか。


 「湖の中にいる、氷漬けになった50万匹のデッドリークロコダイルよ。今すぐインベントリの中に入れ」


 あれ? 何も──って、うおおおおお! 湖の氷が砕けて、中から氷漬けになったデッドリークロコダイルが、勢いよくインベントリの中に吸われていく。


 つーか、本当に便利だよな。この空想言語実現の権能は。


 至高者さん。後どれぐらいで3000万人分になるのか教えてくれ。


 【伝えます。3000万人分の食材の量は、現在120パーセント集めることに成功しています】


 おお! 120って事は、20パーセントも余裕が出来た事になるな。

 

 んじゃ、目標の3000万人分の食材の量もゲット出来たから、六怪の皆を呼ぶか。

 僕はすぐに思念伝播で、六怪のドラゴンたちを呼び、目標だった3000万人分の食材が集まったことを伝えた。


 そして、すぐにダンジョンから出て、また教皇宮殿の中庭に瞬間移動できる転移魔法陣を作り、僕と六怪の全員はすぐに教皇宮殿の中庭に転移した。


 すると、ファフニールが僕に質問してきた。


 「ピーター様。我々が全員集まった時に、3000万人分の食材を集める事は聞きましたが。ピーター様はなぜ3000万人分もの食材を集めたのですか?」


 あっ! お祭り用の食材だって言うのを忘れてた。


 「ごめんごめん。急いでて言うのを忘れてた。この食材は巨大城郭都市が完成した記念の、お祭り用の食材なんだ」


 それを聞いた六怪のドラゴンたちは瞳を輝かせている。

 やっぱりドラゴンも祭りが好きなんだな。


 「でも、まだ誰にも言って無いから秘密だぞ。いいか?」


 『解りました! ピーター様!』


 「それと手伝ってくれて有難う」


 『いえ! ピーター様のご命令でしたら、いつでも馳せ参じます!』


 「まあ、有難い話しだけど、自分らの仕事を優先していいから。それじゃあ僕は教皇宮殿に戻るから、皆はまた空から治安の監視に戻ってくれ」


 『解りました!』


 そして、六体のドラゴンが一斉に両翼を広げ、翼をはためかせると、吹き飛ばされそうな程の猛風が中庭を襲い、逆巻く風とともに天高く飛び立って行った。


 やれやれ、なんとか食材はゲット出来たな。


 今日集めた食材は──300万匹のキラーコブラと、50万匹のキングスパイダーと、100万匹のエビルウルフと、10万匹のマウンテンオークと、50万匹のデッドリークロコダイルか。


 それとタイタン用に、ゴールド鉱石とシルバー鉱石も大量にゲットした


 全部で510万匹か……。凄い数になったな。でも、まだ食材が集まっただけだ。これから祭りの屋台準備とかもするから、公に記念祭りを発表しないと。


 本格的に忙しくなるのはこれからだな。

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