第92話 平和とは、戦争の準備期間である
執務室で僕と、ピノネロと、ウーグと、ウガルとの四人の会議が終わり──早くも一年が過ぎようとしていた。
当初の計画通り、
実はこのモンテス完成には、亜人たちの力も大きい。
僕はマギアヘイズとダミアンヘイズの両国と不可侵条約を結んでいるので、両国に奴隷となった亜人を買い占めたのだ。
奴隷の亜人は、最初こそ奴隷の生き方しか知らないので、国民として暮らせる方法を教える施設で一ヶ月間みっちり教え込み、その後は衣食住を与え、巨大城郭都市モンテスの建設に尽力してもらった。
なので、今ではマギアヘイズとダミアンヘイズから買い占めた亜人の奴隷は、我が国にとって大事な国民であり、大事な労働力なのだ。そして両国から買い占めた亜人の数は、なんと200万人になり、我が国の人口は益々増えたのである。
さらに、あの悪魔二人も手伝ってくれたのだ。ソルとルーナにも何か適材適所の仕事を与えたいが……まあ、後でにしよう。
そして、またしても予想外の事が起こった。
僕は軍都建設には二年はかかると思っていたが、なんと軍都であるレギオンも一年で完成したのである。ついでに言うなら、その期間に、軍都で鍛える腕に覚えのある500万人の兵士志願者も集まったのだ。
これには、アヴィドの住人たちの士気が高かった事と、僕が有事の際に元三大スラムのリーダーであるアドムと、ドリマと、プレースを三大将軍にした事で元々高かった士気がより一層、高まったのかも知れない。
この異常な速さは、流石のピノネロたちでも驚きを隠せなかった。
だが僕は、平和である五年間に、出来るだけの富国強兵をしようと思っていたので、順調すぎるほど順調である。
平和とは戦争までの準備期間とはよく言ったものだ。
アランは早速、軍都レギオンで軍事訓練を始めてくれている。
だが、アラン不在の司法府長官をどうすればいいのか、迷っていると、適任の人物がいた。
ソルとルーナだ。
司法府臨時長官としてソルを長官にし、ルーナには副長官を任せた。
ソルには、仕事内容を説明したら、二つ返事で承諾してくれた──が。
マズいことに最初こそルーナは、自分が長官と言い張って駄々をこねていたが、仕事内容が面倒だと伝えると、副長官で構わないと言ってくれた。はぁ……悪魔の相手は本当に疲れる。
てな訳で悪魔二人にモンテスの街の、司法府臨時長官と臨時副長官を任せたのは意味がある。二人は気配感知の権能を持っている。なので、悪事を働くものを、すぐに感知して捕まえて欲しいとも頼んだ。
まあ、代わりに毎日、豚骨ラーメンを食べる権限を与えろと言われてしまったが。
しかしだ、僕はこの一年の間、何をしていたかと言うと、住み良い街にする為に、円形都市である巨大城郭都市モンテスに、東西南北の四つの各エリアに、巨大公衆浴場を二つずつ設置して、合計八つの巨大公衆浴場を設置した。
さらに近くの川から配管を使い、井戸水ではなく全ての住居に、蛇口をひねれば、すぐに飲み水が出るように改良したのだ。
加えて、我が国で一番大きな冒険者ギルドと、商人ギルドと、情報屋ギルドも完成し、冒険者ギルドでは定価の半額でハイポーションとポーションを売る事にしたので、冒険者たちは飛ぶように買っていき、それを狙って冒険者ギルドに来る冒険者たちも多数いたので、常に冒険者ギルド内は人で溢れかえってしまっている。
仕方がないので、僕は商人ギルドと情報屋ギルドでも、ハイポーションとポーションが買えるようにした。
そして忘れてはいけないのが、食である。
この一年で物質創造し、大量生産に成功したものは、ハンバーガーに、フライドチキン、中華料理全般に、カレーライス、何よりも心血を注いだのは和食である。
正直言って、みりんは日本酒と砂糖があれば、何とかなる。
問題は、醤油と味噌である。
これには自分でも不可能と思っていたが、何千回と物質創造をして、遂に出来上がったのだ。
これで、和食が食べられる。すき焼きに、天ぷら、ウナギの蒲焼き、刺身もだ。まあ、この国にウナギはいないので、ウナギの味に似た魔獣が必要なのだが、そんな事はどうでもいい。
しかし……和食にはかなりの財力を消耗するので、当面は迎賓館のみの食事になってしまう。さらに迎賓館には、マッサージが受けられる施設に、かき氷やアイスクリームが食べられる施設まで作った。
まあ、それ以外にも、この一年間で僕が行った、住み良い街づくり計画はまだまだあるが、説明するとキリが無いので、この辺りにしておこう。
最後に軽く説明すると、酒の種類もかなり増えたので、迎賓館に訪れる者たちは、それが目的で来るものも多数いた。
さてと、ここからが本題だが、僕はただ一年間の間に改革だけをしていた訳ではない。実は人間や亜人にだけしか習得できない、サージスキルと呼ばれる波動思念の体得にも邁進していた。
さらに言うと、波動思念と相性がいい、剣術も習おうと思い、アランに弟子入りしたのだ。アランは剣技もさることながら、サージスキルの波動思念にも長けていた。なので、今までのスキルや権能とは違い、新たな力も獲得しようと思ったのである。
刀はリコにお願いし、ドラゴンの里でしか入手できない、黒竜の金剛石で作ってもらった。何でも、この素材は呪詛の力と竜王の力もあるらしく、刀の持ち主の力に応じて、進化し強くなるそうだ。名前は
リコいわく、自分が今まで作ってきた刀の中で、一番の力作だそうだ。
刀身は漆黒に輝く刀であり、どこから見ても日本刀にしか見えない。
転生者である僕は、見てすぐに日本刀だと思ったが、この世界では日本刀など存在しないので、リコの完全なオリジナル刀剣だと言える。
ついでにリンは、新しいベルトの後ろに刀を紐で結び、腰に佩刀出来るようにしてくれた。
話しが長くなってしまったが、転移魔法陣を使い、僕は急ぎアランがいる軍都レギオンの軍事訓練場まで言った。
訓練場まで転移すると、500万人の屈強な男たちが訓練する姿と大声に押し潰されそうになりつつ、アランを探した。
「ピーター君。この場所まで来たと言うことは、つまり」
アランが先に僕を見つけ、話しかけてきた。
「そう。また剣術と波動思念を習いにきたんだ。今って時間ある?」
「丁度、休み時間にしようと思っていた所だから平気だよ」
すると、すでにアランは背中に背負った大剣を抜き、構えていた。
アランからの教えは、いつ何時でも、戦えるように神経を集中させることだった。
そして僕も佩刀した刀を抜刀する。
普通、剣術と言えば裂帛の気合いで相手を切りつけるのだが、アランは違う。流れる水や、山の中の優しい風のように、気配もなく懐に入ってくるのだ。
これがアランの剣術流派である、
音も無く刹那の中で相手を斬り倒す流派なのだ。
僕は加速思考を100倍にして、アランに挑んだ──が、気が付くとアランはすでに、僕の懐近くまで来ている。ならば500倍だ。
伸びた体感速度の中で、アランが剣戟を振るう速度に対し、なんとか受け流すのが精一杯だ。あんなに重そうな大剣を、小太刀を振るうように軽々しく使いこなし、大剣による斬撃が止まることなく連続して続く。
「言っただろ? まずは
訓練と言っても、これは実戦も兼ねている。アランに手加減の意思はない。だったら1000倍だ。
瞬間、アランが懐めがけて刹那の速さで切っ刃を回して来た──が、加速思考1000倍になった僕には、アランが次の攻撃に移る動作を、ゆっくり思考する事ができた。
なので、何とか天魔刀でアランの大剣による、刹那の動きに対応し、受け流す事ができたのだ。
「ピーター君。かなり上達してきたね。今日はこれぐらいに、しておこうか」
「そ、そうだな。ありがとうアラン」
アランがそう言うと、また訓練場まで戻って行った。
あ、危ねえ……。加速思考が無かったら、死んでたかも。
はぁ。またしても僕の敗北か。一本も取れなかった。まあ、相手は剣聖だけどさ。しかもまた加速思考の権能を行使してしまった。
権能やスキル無しで、何とかアランの実力の半分までは、この四年で到達したいものだ。
そして、残り四年間で何が出来るか考える為、僕は首都である巨大城郭都市のモンテスにある、教皇宮殿まで戻るのであった。
最後に、リリーゼだが、いまだに婚姻しろと言ってくるので、僕の国では婚姻は20歳になってからと言う教えがあると言って、いつも逃げている。
まあ、そんな教えなんて無いんだけど──何故か、僕がリリーゼを復活させたのは、僕がリリーゼのことが好きだからと、勘違いされてしまっているらしい。
本当は大事な仲間であり、家族同然の盟友を殺された怒りから、魔王竜になり、リリーゼを復活させたのだが……女心は16歳の僕には、まだよく解らない……。
第9章・完
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