第90話 富国の為の、大増税


 昨日はアヴィドの悪臭問題の解決で、大事な一日を無駄にしてしまったからな。まあ、スキルの統合が出来たことは良かったけど。


 さてと、今日は富国強兵の為に何をしようかな。


 その時、またノックもせず僕の自室に慌てて、ウーグの次男のウガルが入ってきた。

 例の如く、息を切らせている。


 はぁ……今度はなんだよ。


 「きょ、教皇様! 朝早くすいません! ですが緊急事態でして!」


 「ちょっと、落ち着けよ。お前は国の財務大臣だろ? 緊急事態だったら僕じゃなくて、ピノネロに言いにいけよ」


 「それがですね……ピノネロさんでも頭を抱えてしまって、教皇様なら、何か良いアイデアがあるかもしれないと言われ、走って来ました!」


 ピノネロでも頭を抱える事ってあるんだな。


 「んで何?」


 「それがですね……現在建設中の軍都のことなんです」


 「軍都? だったら人件費が必要ない、900万人の頼もしい奴らも増えたんだし、問題ないだろ」


 「労働力は充分確保出来ているのですが……問題なのは、軍都を建設する為の資材調達に、資金が不足してしまい、臨時で国家防衛の為と言うことを商人や貴族に伝えて、一時的に増税をしましたら……商人や貴族が反発し、逆に税金が入って来なくなってしまったのです」


 つまり、資金問題って訳ね。参ったな……首都を変えて、アヴィドの街よりも大きな街を作る僕の作戦が遅れてしまう。まあ、別にルストの街を首都にしてもいいが、今後の人口増加も考えて首都はルストの街よりも大きい方がいい。


 「あのぉ……教皇様? 何か良いお考えは?」


 「今ちょっと考えてるから、待っててくれ」


 「解りました……」


 はぁ……どうしたものか……取り敢えず、どれだけ増税したか訊いてみるか。


 「なあウガル。増税する前の税金を教えてくれ」


 「はい。毎月、金貨50枚です」


 「じゃあ一時的な増税の税金を教えてくれ」


 「はい。一時的に軍都完成まで、金貨150枚です」


 「はぁ!? 三倍も増やしたのか? それじゃあ反発するに決まってるだろ!」


 何を考えてるんだ……前世でも、いきなり税金が三倍になったら、民主主義でも暴動が起きるレベルだぞ。


 「で、ですが。計算上、金貨150枚にしないと軍都の完成が……」


 「完成させる前に、税金が入って来ないんじゃ、自分の首を絞めてるのと同じだろ!」


 「教皇様の仰る通りです……」


 もう……朝から大声出させるなよ。一国の大臣が、そんな大増税を僕に相談もなくするなんて。後でピノネロと個人的に会議しないとな。


 「解った。もう終わった事だ、これからの事を考えよう。えっと増税の理由はなんだっけ?」


 「国家防衛の為です」


 おいおい。商人や貴族は、自分にとって利があるかどうかで動くんだぞ。それを国家防衛の為なんて言っても、伝わるわけないだろ。


 そうだな……商人や貴族が求めている事を実現させれば、増税は上手くいくんだが。


 「なあウガル。テレサヘイズはかなり安全な国になったが、まだまだ盗賊とか多いだろ?」


 「え? ええ、まあ、盗賊に襲われる被害は減りましたが、やはりまだ、完全に安心できる状態とは言い難いですね」


 「じゃあさ、もしウガルが、個人的に安全を保証すると言われたら、ウガルが今払ってる税金が増えても文句を言うか?」


 「いや、個人的に安全を保証されるのでしたら、税金を倍にしてもお願いしたいです。やはり、住みやすい国家にはなりましたが、いつ何が起こるか解りませんので」


 商人や貴族でも無いウガルも、やっぱ自分の身は安全な方が良いって考えか。だったら商人や貴族はもっと、自分の身の安全を気にしているだろうな。


 「ウガル。この問題、解決するかもしれないぞ。しかも今まで以上に増税できて、商人も貴族も喜ぶ結果になる」


 僕の言葉に、ウガルは信じられないと言うような表情で、言葉を失っている。無理もあるまい、ウガルは商人でもなければ貴族でもない。


 まあ、商人ギルド長をやっていたウーグなら、少し理解できたかもしれないが。


 「そんな夢のような話しが……」


 「ある。商人や貴族に、安全保障を約束すればいい。つまりだ。四獣四鬼しじゅうしきがいるだろ? そいつらは多数の魔獣を従えてる。その魔獣を増税と引き換えに貸し出すんだよ。軍都ができるまで、一時的にな。魔獣が護衛なら、まず盗賊たちは襲ってこれないし、多くの魔獣を借りている商人や貴族は、それだけ財力がある事を、言葉で言わなくても誇示できる」


 「で、ですが教皇様。護衛の兵士なら解りますが、魔獣はちょっと……」


 「おいウガル。この国の教えを忘れたか? たとえ魔獣でも人に危害を加えたら、捕まる。この国はどの種族も皆、仲良くする教えがあるから大丈夫だ。この話しをピノネロに伝えてくれ」


 「わ、解りました……」


 そう言うと、ウガルは一礼をして、僕の自室から退室した。


 まあ、これ以上の良いアイデアは、正直なとこ浮かばない。

 だけどピノネロなら、きっと理解するだろう。


 そして次の日、ピノネロが自ら増税政策の指揮を執り、大々的に貴族や商人に、軍都が完成するまで一時的な安全保障を約束する代わりに、税金を増やす、大増税政策を始めた。


 内容は、僕のアイデアと同じである。


 魔獣を護衛として貸し出す代わりに、魔獣を借りた貴族や商人には税金を今までよりも多く払ってもらうことだ。


 ピノネロが出した、魔獣貸し出しの増税額の内訳の書面を見た時は、流石にやり過ぎじゃないかと思ったが、ピノネロらしいとも言える書面だった。


 まず、グレートウルフ1匹の貸し出しで、毎月の税金とは別に金貨1000枚の増税。


 続けて、クアール1匹が金貨2000枚、ヘルコンドル1匹が金貨3000枚。


 そして、驚く事にベヒーモス1匹が金貨1万5000枚だった。


 これは一時的な安全保障とは言っても、誰もこんな大金を払ってまで、魔獣を護衛に付けないだろうと僕は思っていた──が、この魔獣貸し出しの護衛に、貴族も商人も我先に飛び付いたのだ。税金が増えても構わないと、金貨を払う貴族や商人が後を絶たなかった。


 中には、絶対にいないだろうと僕が思った、ベヒーモスを借りた大貴族までいた。やはり金も大事だが、自分の身が一番大事なのだろう。


 恒久的ではなく一時的とは言え、かなりの額の金貨で我が国の財政が潤ったので、問題だった軍都建設の資材調達の資金難も解決し、この大増税で一気に我が国の財力が増え、一番の課題だった富国強兵の富国が達成されたのだ。


 金は持ってる者から絞り取れ、持たざる者には施しを与えよ。


 この言葉は僕が教皇になってからの口癖になっているが──やはり、金を持っている貴族や商人が金を出し渋るのではなく、惜しげも無く金を払うのを見ると、何だか胸がスカッとする。


 そして、この大増税が終わった後に、僕はピノネロに過度な増税などをする際は、貴族や商人の反発が起きる前に、僕にも相談するようにと伝えておいた。


 その言葉に対し、ピノネロは僕に深く頭を下げ謝罪したが、今回の件でピノネロは、政治や軍略だけでは無く貴族や商人の心をどう動かせばいいのか、理解してくれただろう。

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