第89話 スキルの統合と、アヴィドの街の大問題
もう朝か……。昨晩は悪夢を見て、よく眠れなかったんだよな。
その夢とは、増え続ける僕のアルティメットスキルの権能に、押し潰される夢だ。
まあ、アルティメットスキルが増えるのは嬉しい限りだけど、増え過ぎだもんな。この問題をどうにか出来ないか。
それに、能力複製がとうとうアルティメットスキルの権能まで複製可能になったから、もうスキルの暴走状態なんだよな……。
どうしたものか……。
【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンのアルティメットスキル、天上之至高者の権能に万能統合があります。この権能は全てのアルティメットスキル、ユニークスキル、エクストラスキル、コモンスキルを、天上之至高者の権能として統合させる事ができるスキルです】
ま、まじで!? そりゃ助かる。でもさ、統合されたアルティメットスキルの権能はどうなるの?
【伝えます。統合されるだけなので、統合された全てのアルティメットスキルの権能は今まで通り行使可能です】
本当に? じゃあ今すぐに、全てのアルティメットスキルを統合しよう。
【伝えます。全てのアルティメットスキルと伝えましたが、魔王竜のアルティメットスキルだけは統合不可能です】
いやいや、それでも他のアルティメットスキルが一つに纏まるのは大助かりだよ。あれ? でも待てよ。全て統合すると、治癒之大精霊を
【伝えます。その場合は、バックアップを取っているので、特定のアルティメットスキルだけを、統合解除し復活させることは可能です】
ま、マジで……。至高者さんの権能って何でもありだな。
それじゃあ、取り敢えず統合しても元に戻せるなら、統合しちゃおう!
【伝えます。では、個体名ピーター・ペンドラゴンのアルティメットスキル、ユニークスキル、エクストラスキル、コモンスキルを全て天上之至高者の権能の一つ、万能統合で統合させますか?】
YESだ!
【伝えます。統合が成功しました。ですが先ほども伝えた通り、魔王竜のアルティメットスキルは統合不可能なので、そのままアルティメットスキルとして残っています】
解ってるって。まあ、なんで魔王竜のアルティメットスキルだけ、統合できないのか解らないけど、他の権能とスキルが全部、至高者さんに統合されたから便利になった。
それじゃあ問題も解決した所で、二度寝でもするかな……。
僕が二度寝しようと思ったら、アランがノックもしないで、急に僕の自室に入って来た。
まるでウーグと同じだな。と言うか、いつも冷静なアランが息を切らしている──走って来たのか?
「ピータ君! もう我慢の限界だ! 私がアヴィドのリーダーになって三日経つが、リーダーを辞めたい!」
想像もしていなかった言葉が、アランの口から出たのだ。
「え? ちょ、なんで!? アイツら大暴れして、アランだけじゃ対処できなくなった?」
そう言うとアランは首を横に振り、僕に事情を説明した。
「いや、彼らは私の言う通り命令を守ってくれているよ。軍事都市の軍都建設も嫌な顔一つしないで、全員が力を合わせて働いてくれている」
「じゃあ何も問題は無いと思うんだけど」
「いや、大有りだ! アヴィドの住人は全員、三大スラムから来ている。つまり彼らは風呂に入る習慣が無いんだ。つまり……臭いんだよ! アヴィドの住人も街の中も! 申し訳ないが、この問題が解決しなかったら私はリーダーを辞める!」
なるほど、そう言うことね。
「解った! じゃあアヴィドの住民と街の中が臭くなければ、アランはリーダーを続けてくれるの?」
「まあ、そう言うことになるね。臭くなければリーダーを続けるよ」
「じゃあ僕がその問題を解決させるよ」
僕の言葉にアランは瞠目している。
「じゃ、じゃあ。ピーター君に全部、お願いするよ」
そう言うと、アラン僕の自室から退室した。
まあ、考えてみればスラムの生活で、入浴なんて考えられないよな。
それじゃあアヴィドの街に、巨大公衆浴場を作るか。手順はもう慣れてるし。
僕は普段着に着替えると、早々にアヴィドまでの転移魔法陣を作り、アヴィドの街の中に転移した。
転移すると、街の中は人の気配がしない。皆ちゃんと軍都建設の仕事に出ているんだな。まあ、それは良いことなのだが──アランが言う通り、街の中が臭い……凄い悪臭だ。
これじゃあアランも、リーダーを辞めたいと言う気持ちが解る。
まずは公衆浴場の前に、街中の悪臭を消すのが先か。しかし、たった三日でここまでの悪臭って、アイツらどんだけ臭いんだ? ていうか、さっき至高者さんの権能に全て、他の権能やスキルも統合したから、支配者之天運の権能も至高者さんの権能の一つになってるんだよね。
至高者さん! この街の悪臭をなんとかしたいんだけど。
【伝えます。空想言語実現の権能を行使すれば、可能です】
解った、ありがとう。
「この街の悪臭よ、全て消えろ」
すると、街中に広がっていた悪臭が、あっという間に消えた。
よし。それじゃあ今度は、900万人が入れる巨大公衆浴場を作らなければ。とは言っても、アヴィドは巨大な円形都市だからな。一つだけじゃなくて、東西南北の各エリアに作るか。
となると、四つの巨大公衆浴場を作るのか。まあ、アランがこれでリーダーを続けてくれるなら、簡単な仕事か。
僕はいつもの手順で、物質創造の権能を使い、東西南北に四つの巨大公衆浴場を作った。
これで良し。あとは温泉の源泉を離れた場所に作り、配管でお湯を引いてきて下水道の配管も作れば大丈夫だな。
僕はアランがすぐにリーダーに復帰してもらう為に、急ピッチで空想言語実現の権能を行使し、温泉の源泉を作り、その温泉のお湯をアヴィドまで引く為に配管で繋げ、下水道の配管もバッチリ作った。
だが、これで終わりでは無い。いくら風呂に入って体が綺麗になっても、汚い服を着たら意味が無い。なので、アヴィドの街のすぐ横に、また空想言語実現の権能を行使して、川を作った。これならいつでも、汚い服を洗濯できる。
てか、この権能は本当に便利だ。
さらに、インベントリに入れてある僕の黒いTシャツとジーパンを出した。
アイツらいつも上半身が裸だからな、完全復元の権能を行使して──いや、そうすると僕のサイズになってしまうな。アイツら皆、長身で筋骨隆々だからなあ。
そうだ! 良いこと考えた。
僕はまず、完全復元でTシャツを2000万枚にジーパンを900万本、復元した。つーか、凄い量だな……まあ、そんな事よりも、早く続きだ。
そのTシャツとジーパンを、空想言語実現の権能で、全てXXLサイズにした。ジーパンは長すぎたら余分な部分を切れば良いだけだし。
それにアイツら、ナタなら余るほど持ってるから、ジーパンが長すぎたらナタで切って貰おう。
Tシャツはこれで大丈夫だろ。アイツら全員、ラグビー選手並みに体格に恵まれてるし。
そして僕は、すぐにルストに戻り、アランにまたアヴィドに来てもらった。
「ま、街の中が臭くない……。ピーター君、やはりキミは凄いな」
それがアランの第一声だったが、今まで僕がアヴィドの街で何をしていたかを伝えると、アランはすぐにリーダーに復帰してくれた。
と言うか、洗濯用の川も作ったし、新しい衣服も作った。さらに巨大公衆浴場を四つも街の中に作ったのだ。問題は解決させたのだから、これでリーダーに復帰しない訳がない。
さて、そろそろ夕方だ。軍都建設の仕事に出ているアヴィドの住人が戻って──なんだ? なんだか途轍もない悪臭がしてきた。
その悪臭の正体は、仕事から戻ってきたアヴィドの住人である。
「ピーター君……。私がキミに言った意味を、理解してくれたかい?」
僕はアランの言葉に対して頷いた。
これじゃあ、僕だってリーダーになるのは嫌だ。
すると、先頭を歩いているアドムを見つけた。
なので臭いのを我慢しながら、900万人分の新しい衣服を作った事と、ちゃんと汚れた服を洗濯できるように、街の近くに川を作ったことも説明した。
そして最後に、900万人の住人用に東西南北の各エリアに、巨大公衆浴場を作り、アヴィドの街にある公衆浴場は合わせて四つある事になる。
ルストの街だって、公衆浴場は一つしかないのに。しかもルストの街の公衆浴場の数十倍の大きさもある。感謝して貰いたいものだ。
だが、これでアランがまたリーダーに復帰してくれたのだから、頑張った甲斐があった。
アドムがそれを聞くと、泣いて喜んでいた。
確かに泣く気持ちは解るが……。
「お前ら! 臭いんだから早く風呂に入ってこい!」
そう言うと、仕事から帰ってきたアヴィドの住人たちは、それぞれの住居から一番近い巨大公衆浴場に走って行った。
「ピーター君。本当にありがとう」
「いやいや、これぐらいお安いご用だよ。それよりもアヴィドの悪臭問題が解決して良かった」
それを言うと、アランは笑いながら、また僕を褒めた。
アランに褒められると、なんだか照れてしまうが──まさか、ここまでの悪臭だとは思わなかった。
やれやれ、まさか悪臭問題を解決させる為に、大事な一日を使ってしまうとは……。
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