第86話 900万人の大移動、再び大転移魔法陣を作れ
「おーい! いつまで寝てるんだ? 二人とも早く起きろ〜!」
僕の声で、地面に倒れ込んでる二人がゆっくり起き上がった。
「ピーター! 本気でまた、あの大転移魔法陣を作るつもりなの? 私は、はっきり言って嫌よ!」
「私も……ピーター様の命令とあれば、お受けしますが……流石にあの大転移魔法陣は……」
仕方ない……この手だけは使いたくなかったが。
僕は二人が地面に倒れている時に、密かに物質創造で創造した引換券二枚を二人に見せた。
その引換券とは……好きなラーメンを百杯分まで引き換えできる、引換券である!!
「もし、また大転移魔法陣を作るなら、その引換券を二人に上げてもいいんだけどな〜」
そう言うと、二人は即決で答えた。
「「やります!!」」
はぁ〜、なんと言うか。教皇の頼みよりも、ラーメンの力が上って言う事実が、なんだか悲しい……これでも一国のトップなんだぜ?
まあいいか。二人ともまた、やるって言ってるし。
「んじゃ、900万人の移住者が来る場所まで行くぞ」
僕は転移魔法陣をすぐさま作ると、三人と一緒に、瞬間移動した。
「は? え? なんで淵源の悪魔が二人もいるのよ……」
すると、ソルがアグニスの方に向かい、アグニスの頭の上に軽く手を置いて言った。
「お前よかったな。努力もしねーのに、ピーターのおかげで吸血鬼の
げげっ! アグニスが気にしている事を、ド直球で言いやがった!
別にソルは悪気があって、言った訳ではないが、相手の気持ちなどを察することができないのだ。
それはルーナも同じである。うーむ、これが悪魔の性格なのだろうか。
アグニスは淵源の悪魔に対して、口論することの恐ろしさを知っているので無言だが、明らかに怒っている。
なぜなら、眉間にシワを寄せ、紅潮した顔には、怒張まだ浮かんでいるからだ。
「ん? どうした? お前、気分でも悪いのか?」
「そ、ソル……アグニスは今、気分が悪いんだ。そっとしておいてやってくれ」
「んだよ。だったら早く言えよな」
はぁ……この悪魔は……本当に疲れるな。有事の際は力強いんだけど。
さて、アグニスの様子は……うわ〜凄い怒ってるよ。まさに鬼面だな。
ぶっちゃけ、大転移魔法陣を作るよりも、アグニスのメンタルケアの方が大変だ。
「な、なあアグニス。ソルに悪気はないんだ。許してやってくれ」
何も言わないアグニス……。
「じゃ、じゃあ。ルストに戻ったらホットケーキを食べさせるから、機嫌直してくれよ」
すると小さく頷くアグニス。
ラーメンにも負けて、ホットケーキにも負ける教皇の立場って、いったい……。
「ホットケーキ? おいピーター。それって美味いのか?」
「アタシも気になる!」
……この悪魔どもは。
「実は……私も……」
ボデガスまで。
「解ったよ! 四人分作るよ!」
そして、なぜか物質創造でホットケーキ四人分を、作らされることになった僕であった。
今回はパンケーキの上にバターも乗せてやるか。
────できた! パンケーキ五枚に蜂蜜をこれでもかと言うほどかけて、バターまで乗せたホットケーキだ。
「四人とも! 出来たぞ!」
すると、我先にアグニスが食べ始めた。それを見て三人も食べ始めると──四人とも無言で食べまくっている。
まあ、甘味物って殆どないから、美味いんだろうな。
「「「「おかわり!」」」」
「ダメだ。僕はこれから、また大転移魔法陣を作るから魔力はできるだけ温存したいんだよ。900万人の三大スラムの住人をテレサヘイズに転移させて、僕らもルストの街に戻ったら、また作ってやる」
それを言葉を聞くと、四人とも待てないのか、とんでも無い行動に出た。
「じゃあ、さっさと900万人集めちまおうぜ」
「そうだね! アタシも賛成!」
「私も協力するわ」
「では、私も」
おいおい四人とも、一体どうした? てか、きっと僕がお願いしても動かないと思って、黙っていたが──ホットケーキの魔力……恐るべしだな。ちゃっかりアグニスの機嫌も直ってるし。
「おい吸血鬼。お前ら気配感知のスキルと重力操作のスキルと
「もちろんです。アルティメットスキルの真祖之吸血鬼の権能に、気配感知と飛翔幻舞がありますから。重力操作のスキルも持っています」
「私も三つとも、持ってるわよ」
「じゃあ決まりだな。この大陸にいる900万人をここに連れてくるぞ」
「アタシも頑張るよ!」
そう言うと、僕を置き去りにして、勝手にソルが指揮を取り、四人は猛スピードで上空を飛び、消えてしまった。
やれやれ、僕の存在っていったい……。と言うか夕日が出てきたな。出来れば夜には帰りたいところだが。
そして、10分ほど待っていると、四人が帰ってきた。それも異常な数の人間を上空に浮かばせて、僕の元に飛んで帰ってきたのだ。
「待たせたなピーター。多分これで900万人集まったと思うぞ。今も気配感知のスキルを使って、この大陸全体を感知してるが、人間の気配は無いからな」
「そ、そうなんだ。と言うか、四人とも随分と早かったね。助かったよ……」
おい! こいつらどんだけ、ホットケーキ食べたいんだよ!
だが少し不安だったので、僕も気配感知のスキルを使ってみた。
────人は……いないな。つーか、こいつら本気を出す方向性がホットケーキって……。んまあ、900万人集まったからいいか。
しかし、凄い人数だな。後ろが見えない。
しゃーない、コンキスタのリーダーのアドムを呼ぶか。
「おーい! アドム! ちょっと来てくれ!」
すると、駆け足で僕の前に来て、頭を下げるアドム。
「なあ、アドム。今からテレサヘイズに移動するけど、ちゃんと900万人集まってるの?」
「え、ええ。もちろんです。丁度900万人集まった所で、教皇様のお仲間様たちが現れて、私たち全員を浮かばせて、凄い速さで教皇様の所まで運んでもらったんです」
「解った。900万人いるんだったら、すぐにテレサヘイズに送るから待っていてくれ! それと、出来るだけ全員を密集するように伝えてくれると助かる」
「わ、解りました! では900万人全員を密集するように、伝えます!」
よし! んじゃあ、また大転移魔法陣を作るか。
「アグニスにボデガス、また大転移魔法陣を作るから、三人で頑張るぞ!」
そう言うと、二人は魔力を両手に溜め込んだ。
「本当に、これで最後だからね! ピーター!」
「私もこれで最後にして欲しいです」
「解った解った! それじゃあ──行きますか!」
僕ら三人がまた、天高く両手を翳し、全身全霊で900万人が密集する上空に魔力を注ぎ込んだ。
お、大転移魔法陣が出来た──が、まだ一回り小さい。
「お前ら、後でホットケーキが待ってるぞ! もっと魔力を注ぎ込むんだ!!」
「だから! 言われなくてもやってるわよ!」
「私もです。ですがホットケーキの為に!」
上空で煌びやかな大転移魔法陣が浮かび、その大きさが遂に密集した900万人を超えた。よし出来たぞ。後は大転移魔法陣が900万人の頭上に降りてくれば、転移成功だ。
そして、上空に浮かび上がった光り輝く大転移魔法陣が、三大スラムに住む900万人全員の頭上に、ゆっくり降りると──密集した900万人は一瞬で消えた。
「せ、成功よね?」
「まだ解らない。僕はアヴィドの街の前に、転移するようにしたから、今からテレサヘイズのアヴィドまで転移魔法陣で確認してくる」
言いながら僕は、インベントリの中からエリクサーを二つ出し、アグニスとボデガスに飲ませた。
そして僕が、アヴィドまで転移できる転移魔法陣を作っている傍らで、ソルとルーナも流石に驚いている。
まあ、あれだけ大きな転移魔法陣を見れば、誰だって驚くと思うが──まあいい、転移魔法陣も出来たし、早くテレサヘイズにあるアヴィドに向かおう。
転移魔法陣の中に入り、アヴィドまで瞬間移動した僕が眼前で見たのは、アヴィドの街の前にいる三大スラムの住人900万人だった。
三大スラムのリーダーや、スラムに住む人たちから、涙を流しながらお礼を言われてしまった。やはり、あんな荒野での暮らしは誰だって嫌に決まっている。
リリーゼからは、最初は流刑地だと聞いていたし、本当にあの大陸は、酷い場所だったからな。
僕は全員に、取り敢えず今後のことは、また話すから全員に今日の所はアヴィドで休んでくれと伝えると、皆は笑顔でアヴィドの街の中に入って行く。
それから三大スラムがあった大陸で待っている、アグニスとボデガスとソルとルーナだが。僕がアグニスに思念伝播を送り、思念会話で三大スラムの900万人の住人は、ちゃんとテレサヘイズに送られた事を伝えた。
そしてアグニスに、ルストまでの転移魔法陣を作り、四人はルストの街に転移するように伝えると、アグニスから絶対にホットケーキを作れと、何度も催促されてしまった。
だがまあ、これで何とか誰も殺す事なく、三大スラムの住人全員をテレサヘイズに連れてくることが出来た。しかも巨大要塞都市のアヴィドまで手に入れたのは、かなりの収穫だ。
後は三大スラムの住人の中から、500万人の腕に覚えのある者を集め、屈強な兵士に育てる為の訓練場などがある、軍都を作れば富国強兵の中で、強兵の方は完璧である。
さてと、残りは富国強兵の中で、富国の方だが──取り敢えずルストの街で待機しているアグニスの機嫌が悪くなる前に、早くルストに戻って、ホットケーキを作らねば。
富国の方はその後で考えよう。
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