第67話 働かざる者食うべからず、アグニスとエルも大臣に
えぇ〜っと、アグニスはきっと中庭で毎度の如く──いた! まぁ〜だ鳥にエサを撒いてるぞ。
「おいアグニス! そんなに鳥にエサを撒くのが好きか?」
「当たり前でしょ! 嫌いだったら撒かないわよ」
「ふ〜ん。だったらお前は今日から、農林大臣に決まりだな」
本当は農林水産大臣なんだけど──まあいっか。
「ちょっと! なんで急に決めるのよ!」
「鳥にエサを撒くのも、田畑に野菜の種を撒くのも同じだろ?」
「全っ然! 違うわよ!」
「じゃあ今日からお前は飯抜きだ。働かない人にゴハンを出すほど、我が国は豊かではありません!」
「んな! 何よそれ! それじゃあ私が、毎日遊んでるみたいな言い方じゃない!」
「だってその通りだろ? 傍目から見たら遊んでるだけに見えるぞ。それとも、アグニスは仲間が仕事している中で、一人だけ遊んでますって、ミストスのマラガール公にチクっちゃおうかな〜」
それを言うと、慌てて承諾するアグニス。
「全く。アナタはやり方が卑怯よ! なんでマラガール公様にチクるのよ!」
慌てるって事は、自分でも遊んでましたって認めた事になるのだが──まあ、そこは指摘しない方が良いか。本人もやる気になってるみたいだし。
「それで? そのノウリンなんとかって、何をするの?」
「農林大臣な」
僕は思念伝播で、農林大臣の言葉や、やるべき仕事を教えてやった。
なぜなら、口頭で説明するよりも楽だからだ。
「待ちなさい! 荒れた土地を耕して、広大な農場を作るって簡単に言うけどね! このルストの街は大森林に覆われているのよ! それを一人でやらせる気なの?」
大丈夫、大丈夫。強力な食い倒れさんもいるから。
「お前が師匠って言ってるエルにも頼むつもりだ! あいつのファイアブレスですぐに大森林は焼畑けにする。森林火災になっても、ウォーターブレスがあるから大丈夫だろ!」
「ま、まあ師匠と一緒なら、別に構わないけど。でもやっぱり人手が足りないわよ!」
「だから、その為の大臣なんだよ。大臣の権限で大人数の人手を集めて農業をすれば、労働問題も少しは回復するだろうし」
それにだ。僕はどうしても甘味が食べたい。物質創造ではなく、せっかく農業をするのだから、サトウキビ畑も作り、なんと言っても養蜂だ。
蜂蜜という最高の甘味料が手に入る。
「何さっきからニヤニヤしてるのよ……気持ち悪い」
「いやいやアグニス君。農業のついでに、養蜂もやってもらおうと思ってね。養蜂っていうのは、蜂蜜という非常に甘い蜜を、蜂を飼育して収穫する作業なんだ」
「うっ。なんで蜂なのよ! 私は嫌よ。そんな仕事、他の奴に任せなさい!」
「ほう。良いのかな? 蜂蜜を一番最初に収穫すれば、誰よりも最初に蜂蜜を手に入れる事ができるのに」
アグニスは僕を睨んでいる。
さては、こいつ蜂蜜をまだ食べた事がないな。
よし、丁度いい。甘味物で、ホットケーキを物質創造しようと思っていたので、アグニスにも食べさせてみるか。
「じゃあこう言うのはどうだ? 実際に蜂蜜を食べて美味いと思ったら、養蜂をするってのは?」
アグニスは半信半疑のまま、小さく頷いた。しかし、蜂蜜をかけたホットケーキを食べれば、絶対に自分から養蜂がしたいと言うだろう。
ではっと──前世での記憶を頼りに、ホットケーキを想像して──おお、イメージが纏まってきたぞ。後は蜂蜜だな──あの、とろける甘さを深く想像して──出来た!
では行きますか──物質創造──ホットケーキ二人分!
僕が脳内で想像したホットケーキが、中庭のテーブルの上に二人分、皿の上に具現化された。よし! 創造完了っと。ちゃんと蜂蜜もゴッテリかかっている。
ナイフとフォークは王宮から持参してきた物を、インベントリから出して──いざ、実食。
「ちょ、超美味いいいいい!!」
こ、これは! 思っていた以上に、止まらない!
それを見たアグニスも恐る恐る、僕が物質創造したホットケーキを口にした。
「な、何よこれ! 蜂蜜ってこんなに美味しいの? それにこのパン。いつも食べているパンと違うわ!」
驚愕するアグニスに追い討ちをかける僕。
「いや〜農林大臣になれば、好きな時に、このホットケーキが食べられるんだけどな〜」
「この食べ物、ホットケーキって言うの? その前に、今言った事は本当でしょうね?」
よし釣れた。チョロいな。こいつはドラキュリーナではなく、チョロキュリーナだ。ここでダメ押しのバターも物質創造だ!
「まあ、それはそうと、今食べてるホットケーキをよく見てくれ。白い固形物があるだろ? これはバターと言ってホットケーキによく合うんだ」
すると、無言でバターをホットケーキに溶かし、食べ始めるアグニス。
「う、美味いいいいいい!!」
「はぁ……でも困ったことに……ホットケーキには鶏の卵と、牛の生乳が必要なんだ……ああ、困ったな〜」
「わ、解ったわよ! 鶏も牛も飼育すれば良いんでしょ!」
いよっし! これで農業の他に養鶏と酪農も出来るぞ。また労働環境が増える。まあ、生乳は危険だから、後で牛乳を物質創造して、大宮殿さんに成分分析を頼み、分析結果のレシピと加熱方法を聞いて牛乳を作るか。
後は──あの食い倒れドラゴンだ。
僕は思念伝播で、すぐに王宮の中庭に来るように言うと、エルが駆け足でやってきた。
「よし、それじゃあエルは、今日から農林副大臣だ! 詳しい事はアグニスから聞いてくれ。それと、アグニスも解らない事があったら、なんでも訊いてくれれば、答えるぞ!」
エルは急な事で理解できずに、首を傾げている。
だが、理解できないなりに、僕の為と思い、やる気は充分あるみたいだ。
「なんだか良く解りませんが、ピーター様の命令なら、喜んで引き受けます!」
なんだか、仲間なのに、最近は主従関係のようになってきている……。
だが、なんとかエルにも仕事を与える事に成功したぞ。
それに、なんと言っても天然の蜂蜜である。
嗚呼、楽しみだな。
と、まあ。そんなこんなで、一番の問題であった、アグニスに仕事をさせる計画は、ホットケーキで解決した。
残る問題はまだまだ山積みだが──
よし。ここは執務室も出来た事だし。全員を集合させた大会議を開くとしよう。
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