第52話 新たな仲間と、静かな政治会議
少し早起きし過ぎたか。まだ空が少し暗い。しっかしだ〜。昨日は本当に疲れたぞ。
エンジェルヘイズの王を捕虜にして、ルストに無事帰還すると、まるで凱旋門パレードのようなお祭り騒ぎだった。まあ、戦勝国ってそんなものだろうけど……お祭りしたいのはこっちだっての!
しかもピノネロの策で夕方から虐殺の宴が始まり、エンジェルヘイズの王と全ての大臣を殺し、その勢いで、夜に城を明け渡すように命じ、エンジェルヘイズを併呑する事に成功。
そして、疲れきった僕は泥のようにベッドに沈み、眠りについたのだ。
眠りにつく前にピノネロの鮮やかな戦略と戦術を見て、最初はドラゴンの中から参謀総長を決めようと思っていたが、遂に揺らいでいた決心が固まった。
ピノネロは参謀長の器に収まりきる人物では無い。参謀総長こそピノネロに相応しいと。果たしてピノネロは受け入れてくれるだろうか……。
でもなんだろう。そんな事を考えて、眠りについたからなのか解らないが、早く起き過ぎたな。テンションが上がって熟睡できなかったのかな? 取り敢えず、紅茶と茶菓子でも飲み食いするか。
そして、僕はまだ皆が寝静まっている中、一人で参謀会議室に行くと、なんとピノネロがいた。
「あっ! 教皇様! お早いですね」
そう言うと、また恭しく頭を下げて来たので、この際はっきり言った。
「だから、そう言う畏まった態度は、何か大事な席での外交とか、そう言う時だけでいいよ。と言うか、丁度いい。頼みがあるんだ」
「はぁ、頼みですか?」
「そう。マギアヘイズを倒すまでの、仮の参謀長になって欲しいと言ったが、はっきり言う。是非、我が国で本当の参謀長になってはくれないだろうか! いや、本当の事を言う! 参謀総長になって欲しいんだ!」
そう言うと、ピノネロは全く驚かず照れ臭そうに、少し俯き、その後、僕の顔をしっかり見て言い放った。
「その件なんですが、ずっと思っていたんです。亜人である私の作戦や指揮に、人間の兵士が嫌な顔一つせず、応じてくれた。これが、もし他国であるなら、亜人である私がいくら教皇様の命令で指揮を執っていたとしても、誰も言うことを聞かずに、作戦は破綻し、完全敗北していたでしょう」
「う、うん。まあ、亜人とは仲良くするようにと言う、教えがあるからね。それで──」
僕の言葉を遮り、ピノネロは硬い決意を秘めた口調で話を進める。
「このピノネロ。教皇様が実に偉大なのか、身に染みて感服致しました。恐怖政治でもなければ、絶対君主制でも無い宗教国家で、教皇様がどれだけ民に敬愛されているのかを。そして言葉通り、亜人も人として扱うこの国家に私は永住したく思います。つきましては、参謀総長の任。謹んでお受けいたします。ピノネロ・ブルグンダーと言う素晴らしい名前も与えてもらい、その名に恥じぬよう、心血を注いで教皇様の手足となる所存であります!」
おお。実は最悪──僕もウーグのように土下座をも考えていたが、まさかピノネロの方から最初は参謀長と言ったが、僕がダメ元で参謀総長になって欲しいと言ったら、あっさり引き受けてくれるなんて。
今回はスキルのチャームも使ってないのに……ピノネロに気に入られたのか?
まあ、とにかくだ。これでやっと背中に背負った見えない重荷が、スッと消えていく感じがした。正直どうやって仲間にしようかずっと考えていたからな。
「解った! 今日からピノネロ・ブルグンダーを、神聖魔教国テレサヘイズの参謀総長に任命する」
「ハハッ! 有り難き幸せ!」
幸せなのは、こっちの方だよ〜。それじゃあ参謀総長も決まった事だし。まだまだ不安定な政治問題に取り組まなくては。
僕はメイドさんを呼んで、紅茶と茶菓子を頼み、二人での政治問題についての会話が始まった。
「では、早速ですが、この国は宗教国家です。本来宗教国家は権力がピラミッド式になってしまうもの。マギアヘイズが良い例ですね」
「そうそう。そこなんだよね〜。ずっと考えてるんだけど、宗教国家で三権分立をしても良いんだけど、色々と問題もあってさ〜。何か良いアイデアはないかな?」
「そうですね……では、今はまだ戦火の中にいる状態です。ですから、平時の際は三権分立の立法府、行政府、司法府を作り、有事の際は教皇様が全ての絶対権を持つ。と言うのはどうでしょう? ただ、これはまだ民衆には伝えない方が宜しいかと」
突然の提案に困惑し、思わず問いを投げた。
「え? なんで? 伝えた方がいいんじゃない?」
「私もそう思いますが、今すぐ伝えるのは避けるべきと言う事です。民衆はまだ、マギアヘイズと言う強国に睨まれ、教皇様に絶対の忠誠心を持っています。加えて、先のエンジェルヘイズ併呑に対し、敵国90万人の兵士の戦死により、難民の受け入れや戦争孤児などの受け入れもしなくてはいけません」
そうだった。そりゃいきなり兵士とは言え、普段は国の民衆だ。その民衆がたった一日で90万人も死んだことは、大きな問題だよな。
「解った。その戦争事後処理だけど、今は人がいないんだ、ウーグと二人で事に当たってくれないか? 僕はまたリリウヘイズとの外交があるし」
「最初からそのつもりです」
おお、やっぱ頼りになるね〜。
「それじゃあ、まだ執務室も出来ていない、小さな円卓会議室だけど。これからは、どんどん政治にも力を入れていくから、取り敢えず僕が考えていたのは、平時の際に三権分立をする時の長官を決めてたんだ。ウーグには国務大臣の役職を与えてるけど、あいつにはこれから、立法長官を任せようと思ってる。それからピノネロには行政長官を任せたい。さらに有事の際は、参謀総長として活躍してもらいたいんだ。っと、ここまでの話しで何か異論とかある?」
「いえ。その案で宜しいかと。それと、後は司法長官なんだけど……ぶっちゃけ、まだ誰にしようか決まってないんだよね。アグニスに任せたらメチャクチャな裁判とか暴力警官組織とか作りそうだし……だから、取り敢えず、現段階では司法府は保留ってことになっちゃうかな」
「まあ、確かに、焦って決めて適材適所でも無い者に任せるよりも、よく吟味する方が宜しいかと思います。その前にまず、私の命令で破壊してしまった、リスタ近郊の暴れ川を渡河する為の、大橋を建造する事に尽力します」
「あぁ〜。そう言えば壊しちゃったんだっけか〜。商人たちを敵に回すと怖いから、出来るだけ早めに建造し直さないとだな」
そう言うと、なぜだか二人して笑っていた。
うんうん。なんだろうか、ピノネロとの会議は実にスムーズに進んでいくな。ウーグも何だかんだ言って、やる時はやってくれるし。
と言うか、アイツ。かなり初期の頃から仕事してくれてるよな。大聖堂が完成したら、その中に露天風呂でも作って、ウーグに休息させてやらねば……。
そんな事を考えていると、メイドさんに朝食の準備が出来ましたと言われ、僕とピノネロは参謀会議室を出て、食事の間に入った。
てか、別に怒ってないけど、エルとアグニスは大事な時に居なかったくせに、食事の時だけちゃっかり一番乗りなんだよな……。
でもこれで、一番の課題だった参謀総長のピノネロが仮ではなく、正式に仲間になってくれた。しかも天才参謀総長ときたもんだ。
斯くして、また新たな仲間、参謀総長のピノネロが我が国家に加わり、まだまだ問題は山積みだが、僕の肩の荷が少し下りたのである。
と、同時に心なしか、普段と同じ朝食だが、今日の朝食は格別に美味しく感じたのであった。
第5章・完
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