第49話 援軍要請と意外な返事、そして決意と新たな策


 しっかしエルとアグニスに説教するのはいいが、本当にどこ行きやがったんだ? あいつらは。


 【伝えます。アルティメットスキル、全能之結界者の権能の一つ、思念伝播しねんでんぱを使えば、遠くにいる者とも思念会話が可能ですが、この権能を行使しますか?】


 そんな便利機能あるなら、早く言ってよ! もちろんYESだ!


 (「おいエル! アグニス! 聞こえてるか? お前ら今どこにいるんだよ!」)


 (「ぬお! その声はピーター様! いや〜上手い串焼きの露店を見つけまして、つい買い食いを。あっ! でもこの前の、グリフォンの串焼きの方が美味しかったですよ」)


 (「グリフォンとか、んなことはいいんだよ! 緊急事態だ! エンジェルヘイズが100万の大軍勢で攻めて来たから、早く王宮の参謀会議室まで来い! あとアグニスはどこにいるか知ってるか?」)


 (「アグニスなら、私と一緒に今串焼きを──って、ええええ!? 100万の大軍勢!? わ、解りました! すぐに参謀会議室まで行きます!」)


 そして、思念伝播を解除した。ていうか、エルとアグニスって大抵いつも一緒にいるよな。どんだけ仲がいいんだ?


 っと、その前に。早く転移魔法陣でリリウヘイズまで行かないと!

 僕はすぐに床に両手を翳すと、煌めく転移魔法陣が床から浮かび上がり、その転移魔法陣に入り、リリウヘイズに向かった。


 転移後の閃光が徐々に薄れて行くと、リリウヘイズの帝城の前まで辿り着いた。


 門番を務める翼亜人の近衛兵たちも、肩で息を切る僕を見て、ただならぬ事態だと察してくれたのだろう。来た理由も訊かず、すぐにリリーゼがいる皇帝の間に通してくれた。


 まるで前世で見た、結婚式場のような天井の高さと、豪勢で至る所に宝石や宝珠が埋め込まれた壁を見る度に、圧倒されてしまうが、今はそんな豪奢な帝王の間に興味はなかった。


 あるのはリリーゼに援軍の要請をする。ただその事だけである。


 「そんなに慌ててどうした? もうマギアヘイズが攻め込んで来たのか?」


 「いや、マギアヘイズではなく、エンジェルヘイズです。今100万の大軍勢でテレサヘイズに対し挙兵をしました。何卒、援軍を!」


 しかも、僕の予想とは全く違う回答が返ってきた。


 「ならぬ! エンジェルヘイズと同盟を結び、すぐさま破棄されたのは、一重に貴様の外交能力不足。妾と真なる同盟を結びたいのであれば、己の力のみで、エンジェルヘイズを返り討ちにせい! もし敗北するようであれば、貴様と妾の同盟も破棄とする! 良いな?」


 「ま、待ってください! 確かに能力不足は認めます! ですが今は少しでも援軍を──」


 「黙れぇ!! 泣き言など聞きたくない! 妾はそんな国と同盟など、結ばぬぞ! 解ったなら、即刻自国に戻りエンジェルヘイズを返り討ちにして見せよ! いいか? 心して聞くのだぞ! くれぐれも妾を落胆させる事だけはするでない! 話しは以上だ!」


 そう言うと、リリーゼは奥の部屋に行ってしまった。


 確かに自分が逆の立場なら、良い顔してホイホイ援軍など送らないだろう。これは子供のゴッコ遊びではないのだ──国家とは軽々しく甘い考えで運営できるほど、都合良く出来てはいない。


 常に内外の外敵に目を光らせ、迷える民草を守ることで、初めて王と認められる。解ってる、解っているが──考えが甘かった。


 リリーゼも国家運営に相当苦心したのであろう。出なければ、あれだけの威厳と民草からの絶対的な忠誠心は得られない。やらなくては。これは今、僕に課せられた試練なのだ。この戦争に勝ち、真に認めらる国家にしてみせる!


 そして、足早に転移魔法陣で、またテレサヘイズの参謀会議室に戻った。


 会議室には、全員が揃っていた。エルにアグニスにウーグにピノネロ。


 時間がないので簡単にエルとアグニスに、ネズミの亜人のピノネロを紹介し、今後の方針とリリウヘイズからの援軍要請拒否の報告をしなくてはいけない。


 皆が期待していた、リリウヘイズの援軍要請拒否を知らせたら、ガッカリするだろうな。

 威厳もなにもあったものではない。国家を支える教皇失格だ。しかし、伝えなくては。


 僕がリリウヘイズからの援軍要請拒否を知らせると、四人の中で唯一ピノネロだけが、ガッカリしていなかった。と言うか、想定していたような顔付きで、テレサヘイズ全土の地形図を円卓に広げて凝視している。

 すると、ピノネロが語り始めた。


 「ピーターさん! 詳しい情報が入って来ました! エンジェルヘイズのおよそ100万の軍勢の内訳は、上空から攻撃部隊であるグリフォン隊10万。騎兵40万。歩兵50万です。加えてお尋ねします。このテレサヘイズで霧が発生しやすい場所はありますか?」


 「まあ、ある事はあるよ。でも凄い濃霧で、目の前なんて1メートル先も見えないぐらいの場所だぞ」


 それを聞くと、瞳を輝かせるピノネロ。


 「場所はどこですか?」


 「リスタの街から南下した小高い丘が密集してる場所と、その下の暴れ川に挟まれた場所だけど……なんで?」


 「理由を話すと長くなりますので、後で詳細の方は後ほどお伝えします。それで、その暴れ川には渡河できる橋はありますます?」


 「あるよ。その暴れ川に橋があるから、荷馬車が渡河できて、商業が成り立っているんだ」


 「解りました。では──その橋を壊しましょう」


 え、ええええ? 何言ってるの?


 「おいおい! その橋は100年以上も昔に、凄腕の建築家が作った橋で、国家財産級の橋なんだぞ!」


 「ですが、その橋を壊さない限り、この戦争は勝てません。それに、壊したのなら、それ以上に立派な橋を作れば良いだけのこと。国家が壊れれば元には戻りませんが、橋なら元に戻ります」


 「つまり……ピノネロが言いたい事は、その橋を壊せば勝てるんだな?」


 「もちろんです」


 自信満々に言うピノネロに返す言葉が無かった。

 今一番、落ち着いていなければいけないはずの僕よりも、まだこの国をよく知らないピノネロの方が落ち着いて戦況を把握している。


 まさに天才だ。


 皆には本当に、不甲斐ない教皇で申し訳ないが、今はピノネロの策に全てを賭けるしかない。 

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