第41話 感動とは言えない、元親子の再会
僕は今、決断の時を迫られている。
な〜んて格好つけても始まらん。要は、リリウヘイズとの同盟問題だ。
エンジェルヘイズからアグニスの転移魔法陣ですぐさま、テレサヘイズの参謀会議室で、ウーグとエルとアグニスで会議を始めたが……エルの腹の虫がうるさ過ぎる!!
しょうがないので、擬人化させたまま、金貨50枚を渡して、好きなだけ食べてこいと言ったは良いものの──僕の宗教国家は、戦闘面では問題ないが政治面、特に参謀長や参謀長補佐などがいないのだ。
今は仮に国務大臣をお願いしたウーグが、参謀も兼ねているが、これではいつか破綻してしまう。
なので、このリリウヘイズとの同盟をいち早く終わらせ、今度は参謀長を任せられる、三国志で言うところの
僕が円卓の椅子に座り溜息をついていると、突然、参謀会議室の扉を強く叩く音がするかと思うと、近衛兵団長が扉を急に開き、僕に質問してきた。
「緊急の為、大変な失礼をお詫びいたします。ですが、ピーター教皇様の父母を名乗る物乞いが、教皇様に会わせろと城門から離れないので、打首にするか、教皇様直々のご判断を仰ぎたく馳せ参じました次第です。私のご無礼はどうか、この首一つで!」
「いやいや! ちょっと待ってよ! 打首とか、団長さんまで首を落とすとか、訳がわからないんだけど。とにかく城門に僕の父母を名乗る人物がいるんでしょ? 解った! 会ってみるよ。それと団長さんの無礼は不問とする!」
「ハッ! ご寛大なお言葉、ありがたく存じます。では城門にいる教皇様の父母を名乗る不埒者を連れて参ります!」
そう言うと、近衛兵団長は颯爽と会議室から出て行った。
……まさかねぇ。だって勘当して、リスタの街から追放したのは、父の方なんだし、今頃は優雅に貴族ライフをエンジョイしているでしょ。
まあ、とりあえず会ってみますか。そして、王の間の玉座に座り、その父母を名乗るものが、縄で縛られ、近衛兵団長に連れて来られた。
何故か従者のフリをした、僕の横に立っているアグニスは無視しよう。
きっと興味本位できたに違いない。
「いいか! ここは教皇様の御前である。怪しい行動をしたら即──」
「え? 父さん? それに母さんまで……」
その言葉を聞き、近衛兵団長は慌てて、二人の縄を解いた。
「まさか本当に教皇様の父君と母君であらせられたとは、失礼いたしました」
深々と僕の元父母にお辞儀をする近衛兵団長。そして、団長はその場から退室した。
しかし、この短時間でここまで変わるものかね〜。
まさに、物乞いの姿だ。市民の方が貴族に見える。
「あ、あ、会いたかったぞピータ! 私の無礼をどうか許してくれ! そしてまた家族になろうではないか! ギュスターブの名を名乗るのも許そう!」
いやいや、勝手にも程があるだろ。追放しておいて、また家族だ? ギュスターブの名を名乗るのも許すだ? 名乗るなって言ったのは、アンタだろ!
嫌だね。もう貴族に振り回されるのはゴメンだ。
だが──この見るも無惨な変貌ぶり、一体何があったのか訊いてみると。
僕をリスタから追放し、家に帰ると盗賊の襲撃に会い、財産の殆どを盗賊に盗まれたらしい。因みに、その盗賊は今も見つかっていないそうだ。
呆れたな、財産を失い貴族の大豪邸を売り払い。その売り払った金でまた、豪遊をし大貴族ギュスターブ家は崩壊したのだそうだが──これって自業自得だろ。
金がなくなったから、現在この国の教皇の僕に金をせびりにきた訳か──しかし、気になるのが、カルロスとマルカスの姿がないことだ。
僕は二人の兄弟のことを問いただすと、なんと、あのドラゴンの里を襲撃した総勢500万の大軍勢の中にいたのだそうだ。
しかし、運悪く、戦死したと聞いた。
そうか──戦死した15000名の中にあの二人も……。
暴言の一つでも吐いてやろうかと思ったが、この二人の心境を考えると、そんな死体に鞭を打つような事はできない。
「悪いが。僕はもうギュターブ家の息子に戻るつもりも無い。それに今はやらなくてはいけない事が山積みなんだ。大金貨50枚をやるから、それで生計を立てろ」
上に立つ者は、時として無慈悲にならなくてはいけない時もあるのだ。
そして、大金貨50枚が入った袋を渡すと、何と、礼も言わず僕の顔も見ず、ニヤけた面で大金貨の枚数を数えながら、王の間から出て行った。
この二人だけは、とことん性根が腐ってやがる。もう金をせびりにきても、絶対に謁見させないように、近衛兵団長にルストの街から、あの二人は出入り禁止の命令をしなくては。
そうしないと、また何度も金をせびりに来るだろうからだ。
金の切れ目が縁の切れ目とは、よく言ったものだな。
没落貴族でプライドだけは一人前にあるなんて、終わっている。
しかしだ、カルロスとマルカスが戦死とはな。
それも、あの大激闘のドラゴンの里襲撃事件の時の、戦死者だったとは。
これも因果応報なのかねぇ。人って金や地位だけで、ここまで変わってしまうのか。あぁ嫌だ嫌だ。これだったら、まだ魔獣や魔人の方が心がある。
だが、一応は血の繋がった兄弟のカルロスとマルカス。
この二人の戦死の知らせには、少しだけ心が動いた。
しかしだ、不思議と涙も出なければ、悲しいとも思わなかった。
別に非情な人間ではないが、これがエルやアグニスやウーグだったら、泣いていたのかもしれない。
よし。湿っぽい話はこれにて終了。早く同盟を──
「アナタ。もしかして、あのギュスターブ家の家柄だったの?」
アグニスが驚いた口調で言っていたが、僕は冷静に頷いた。
「あの王にも意見が出来る。大貴族のギュスターブ公爵の息子だったなんて……」
「んまあ。今は教皇なんだし。それに昔の話だよ。僕もお前と同じで国を追放されたし」
そう言うと、アグニスはまさか僕が自分と同じ境遇とは知らず、何だか俯いている。
僕が何の苦労も無しに生きてきたのだと、思っていたようだ。
「まあ、その、あれだよ。人生色々ってやつだ。アグニスの追放された気持ちも解ってるつもりだぞ?」
僕の言葉に納得したのか、アグニスは深く溜息をついて、またリリウヘイズの問題に着手した。
何だか、親子関係って面倒だな。そういえば前世での僕の両親は普通だったから、あのアホ貴族の親が毒親なのだ。
まあ、転生して親には恵まれなかったが、仲間に恵まれたから、よしとしよう。と、ここまでは良かったのだが──不思議に思うことが一つだけあった。なのでここは単刀直入に訊いてみた。
「なあアグニス。お前両親から国を追放されたのに、なんでまだルストにいるんだ?」
「は? だって私を追放した両親よりも偉い人物がいるじゃない」
そう言って、アグニスは僕を凝視してきた。
「まさかお前、僕らの仲間で僕が国を代表する教皇だから、両親からの追放は免除だなんて言わないよね?」
「え? 違うの? 私は教皇の側近で護衛を担当しているから、追放は免除なのよ!」
「いやいや逆じゃない? いつも近くにいるから側近は認めるけど、護衛はされていないと思うぞ……」
「うるさいわねぇ! 細かい事はいいのよ! とにかく私は国を支えるピーターの側近なんだから、追放は免除なのよ!」
メチャクチャな理屈である……。
それって、両親が決めることじゃないのかと、言おうとしたがやめておいた。面倒な口論は嫌だからだ。
しかし、アグニスの中では──僕の側近は置いといて……護衛って事はつまり、仲間として助ける気持ちがあるのか。
いつも自分のことだけしか考えていない奴だとばかりに思っていたが、案外仲間思いなんだな。ってことは、なんやかんやで、やっぱり仲間に恵まれている事を再認識する僕であった。
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