第七話


 「近来まれにみる不手際集団」

        (第七話)


         堀川士朗



久しぶりに東京のライブハウスに戻れた。

しばらく謹慎処分で抜けていた中村問屋子はなんも悪びれる様子もなく北区のライブハウス『モゾビー』の楽屋に、衣裳が入っているバッグひとつ抱えて現れた。

あたしたちもなんも言わなかった。

腐れ縁の共同体の中にいるのだ、あたしたちは。

諦めの。


楽屋では角川チョロギが純情おぼこな鹿羽ルイ子をドドゥイッツ教に入信させようと勧誘していた。

揃いも揃ってどんな神経をしているのだろう。

みんな、顔はそこそこかわいいけど。

あたしは蜜柑を食べながらそれをへーって観察していた。

みんな偉いなあ。

いや、偉いのかなあ。

ただしがみついているだけなんじゃないのかなあ、ナンバーワン姉ちゃんズに。

あ~。

あたしもそうか……

……………………。

……やべえ、また失神してた。

最近よく失神する。

疲れているのだろう。

今、気力がとても落ちている。

あたしも鬱になるのか。

なるのかも知れない。

要因はいっぱいある。

ただその現実を、無視して無理して生きてるだけだ。

あーなんか。

あ~なんか。

サウナ入って美味しいサムギョプサルが食べたいな~。

ギョプサりてえ。


出番まであと一時間。

楽屋にヤマトンチュ宅配便で小さな段ボールが送られてきた。

事務所からだ。

段ボールを開けた。

中にはあたしたちの販促用のブロマイド写真200枚が入っていた。

これをライブ終演後の物販タイムであたしたちが自ら売るのだ。

サインをして。

一枚一枚確認する。

……………………!!

なんと全ての写真が人物の目がすごい赤目になっていたり、不吉な心霊的な白黒写真になっていたりピンぼけのものもあった。


「なんだこれ」

「それって、ひどいよ物流ってことォェ?」

「いやこれ製作会社の問題でしょう。製作費ケチってあの安い国にやらしてるからこういう事になるんですよ」

「角川チョロギはそこら辺のカラクリとか詳しそうだな。角川は闇が深いからな」

「なんですかそれ」

「なんか段々グッズのクオリティが下がってるよね。杉下鉱脈女史は会社にこれ届いた段階でチェックしなかったのかな?」

「ああ、あいつはこないだ大麻でパクられて今留置所だよ」

「ああ、そうか」

「杉下って元AV女優やってたらしいですよ。事件発覚で出自がバレました」

「ああそんな感じするべ。元AVで大麻パクられか。典型的な出世コースだな」

「軽奈!そんな事よりも!こんな。こんな恐怖ブロマイド誰に売れるよ。買うか?画質ひっど!」

「ライブ終演後の高揚のフインキで無理矢理売らすしかないね」

「だな。ライブで興奮してティム汁ダラダラ流してる馬鹿な臭いおっさんどもに売るか。あいつらは実物よりも写真の方に興奮するS級コミュ障ド変態どもだからな」

「軽奈……お、おう」


……さすがに言い過ぎた。

ファンは大切にしよう。

テヘペロン。



            続く


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