第三話
「近来まれにみる不手際集団」
(第三話)
堀川士朗
あれからメンバーと会話を重ねていった結果、どうやらあたしたちは似たような境遇らしかった。
つまり親がいなかったり、ネグレクトだったり、学校を中退していたり諸々だった。
はみ出しもんの俺たち。
『ナンバーワン姉ちゃんズ』!
腐った社会なんかに負けるものか!
初ライブ。キャパ100ほどのライブハウス。楽屋にいる。
ライブ間近。
メンバーはみな緊張している。
「うー緊張してきた。おしっこ漏れそう」
「あたしも」
「ションベニアションベンが出る二コフ」
「なんだよそれ市松」
「それって、集団放尿ってことォェ?」
「鹿羽、ちげーよ」
「この豚骨醤油おんな」
「何それ」
「え。例え」
「何の?」
「……いいじゃん」
「さあ出番だ!行くよ!」
ステージに飛び出していくあたしたち。
満員のフロアー。
「みんなー!よろしくおねしゃすしゃーす!今日からデビューの、あたしたち、ナンバーワン姉ちゃんズで~す!」
歓声に迎えられてあたしの緊張は一気にほどけた。
『どす恋うさぎさん』
作詞作曲 万麻宮帆立貝
うた ナンバーワン姉ちゃんズ
どす恋 どす恋
どす恋 どす恋
うさぎさーん
ピンクの ピンクの
ピンクの ピンクの
うさぎさーん
モフモフ?
モシモシ?
シモシモ?
ウィッシャポー!
それは奇声
ウィッシャポー!
それは雄叫び
素敵な素敵なサムシン!
ティオペペゴンチャーゴ!
これも奇声
二兎追うものはイットも得ず
リアタイでリタイアしないで
どす恋 どす恋
うさぎさーん
嘆きの壁で
ボルダリングしたいよねー
ねえ ミライのあなた
台風上陸の日にわざわざ
川の様子を見に行く
おじいちゃんには
ならないでー
ピンクの ピンクの
うさぎさーん
朝 起きたてのあなた
お好み焼きの
匂いがした
開けライオンズゲート
そして閉じろすぐに
大きな耳がはさまったー
どす恋 どす恋
うさぎさーん
今日でねー
小粋なものを
食べた事なんてー
忘却しちゃうさー
味が変だよ 味変だけど
それはすぐに
思い出すのさ
どす恋 どす恋
うさぎさーん
さあ
ピンクの ピンクの
うさぎさーん
あたしは曲の合間にアドリブでシャウトした!
「震えて眠れーっ!野郎どもーっ!」
アビゲイル市松がそれを見て笑って高くジャンプして、
「お前らの薄っぺらな人生を俺たちに捧げろーっ!」
と吠えて応えた。
一瞬間の一体感!
汗が別の生き物のように弾け跳んだ!
あたしは生きている。
初ライブとしては出来すぎなくらいのパフォーマンスだった……!
そして打ち上げ後のあたしたち五人は「お清め」と称してモックバーガーで夜モックした。
フライドポテトに塩が振ってあるからな。
みんな美味しそうに食べている。
みんな…。
みんな……。
みんな………。
みんな楽しそう。
嗚呼。
メンバー五人の集団にありながら、どうしてあたしはいつも自分を仲間外れみたいに思うのかな。
リーダーなのにな。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます