第二話


 「近来まれにみる不手際集団」

        (第二話)


         堀川士朗



あたしはアイドルグループのリーダーだ!

今からポールポジションを取っておかないとナメられてしまう。

もうマウントの取り合いは始まっているのだ。

猿のマウント。

取る。

取ってやる。

取ったり。


あたしは隣の席に座っている、フリフリの原宿ファッションに身を包んだ少女に声をかけた。

自己主張が激しい割りには主体性のなさそうな子だった。


「よお」

「はい」

「すげーカッコだな」

「えへへ。ありがと」

「誉めてねえから」

「……」

「名前は?」

「鹿羽ルイ子です。ルイルイって呼んで下さ~い」

「呼ばねえよ」

「それって、敵前逃亡ってことォェ?」

「ちげーよ」


今度はあたしは、向かい側の椅子に座っている背のやたら高い彫りの深い女に話しかけた。


「よお」

「ん」

「名前は?」

「アビゲイル市松だ」

「歳は?」

「17だ」

「微妙だな」

「お前もな」

「お前外人か?」

「ハーフだ。クロアチアの」

「そうか。外人は、くせーからな」

「……」

「お前は半分くせーんだろうな。ハーフだから」

「お前も日本人だけどくせーけどな」

「あ?」

「あ?」

「やめましょうよ!仲良くしましょうよ!、せっかくの第一期選抜メンバーなんだから!」


さっき名前を聞いた角川チョロギ19歳が割って入る。

こいつは最年長の年上のくせに敬語で喋ってくる。

チッ。こいつの正義感は後々ウゼーだろうな。

18歳の中村問屋子はこんな状況にも関わらずスマホをいじってニヤニヤしている。その手首にはリストカットの跡がいくつかあった。

と、思ったらそれはただ単に手首に茶色の輪ゴムを数本巻きつけているだけだった。

何のために?

やべえ。キメえ。なんだこいつ。病みキャラか?

鬱かよ。近寄るな。鬱は伝播するからな。

しかし、揃ってロクなメンバーいねえな。

やりにくそうだ。

みんな、顔はかわいいけど。


プロデューサーの岩谷火星人が隣の席の150センチくらいの小男を紹介した。


「なお、全てのすんばらし~い楽曲は俺の相棒でもある万麻宮帆立貝が担当するよ」

「ああ、任せてくれ。俺はこの子たちガールズたちと太陽サンシャインの力パワーによって啓示インスピレーションを得て作詞作曲するぜ」


万麻宮帆立貝と呼ばれた小男はチワワみたく小刻みに震えながら、ちょっと常識では信じられないくらいの小声でそう大言壮語した。


あたしはこのアイドルプロジェクトが、なんかレバレッジを際限なく賭けた無謀な投資みたいに思えて正直不安しかなかった。



あ~、やな事思い出した。

あ~、やな事思い出した。

あ~、やな事思い出した。

この歳なのに、既に数々のトラウマが全身を駆け抜けるよ。



翌週からレッスンが始まった。

ダンスレッスン。

誰の足を踏んだとかそういう些細な事から喧嘩となり、後はメンバー入り乱れての無限の頬の叩き合いとなった。

飛び交う平手打ちの嵐。

レッスンに同席しているマネージャーの杉下鉱脈女史は止めもせず、メンバーがやりたいようにやらせている。


ばちーん!

「ギ、ギギ」

ばちーん!

「ギ~ッ!」

ばちこーん!

「ギ、ギ、ギッ!」


あたしたちは20分もそうやって頬を張り続けた。

真っ赤な真っ赤な女の子、頬が。

誰も止めに入らなかった。

麻痺した頬よりも叩く掌の方がビリビリ痛くなってあたしたちは自然に平手打ち合戦をやめた。


「終わった?満足イッた?それでこそ真の友情にあなたたちはやがて気づいていくのよ。それは愛」


とか杉下が言うので、うるせえキメえとあたしは思った。

なんかこいつの多幸感は、なんかの薬物でもやっているような感じがするよ。



            続く


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