【8話】霧の中の灯火
今日の最後の授業が終わり、
(なにかあったのかな……)
私は
「どうしたんだろうね?」
『なんか雰囲気ちがうなー。聞いてこようかなー』
彼女も気になっているようだった。
「
私は自分の席に座り、後ろを振り返る。
「
目が合わないと心が見えない。心配が募り、どうしても彼の心が見たくなる。あんなに心を読むのが嫌いだったのに、今は自分から見たくなるなんて。彼がこんなにも苦しんでいるのに、何もできない自分が歯がゆい。
「ねぇ、
私は彼の顎を両手で支え、軽く持ち上げた。
『おいてめぇ、なにやってんだ!ふざけんなよ!聞いてんのか、おい!』
この荒々しい声と共に、
『謝ろうと思ったけど、ものすごい剣幕で怒ってくるから、言葉がつまって出てこなかった。どうして僕はこんなに要領が悪いんだろう……』
陽之都くんと揉めたことが、
彼の心に触れると、その痛みが直接伝わってくるようだった。心の中で彼の苦しみが鮮明に浮かび上がり、私も胸が締め付けられる。
「
「あ、ありがとう……」
同時に先生が教室に入ってきて、帰りのホームルームが始まった。先生の声が響く中、私は心の中で彼に語りかける。
『大丈夫だよ、
☂ ☂ ☂ ☂ ☂
帰りのホームルームが終わると、
「あ、待って!」
私は思わず何も持たずに追いかけた。
「あ、
でも、さすがに運動部は足が早い。全然追いつかない。焦る気持ちが足に力を入れさせるが、階段に差し掛かった時、足がもつれてしまった。
「きゃっ!」
体が前に投げ出される感覚。次の瞬間、階段の角に膝を打ち、ゴツンという鈍い音が頭に響いた。視界が一瞬白くなる。手すりにぶつかり、そのまま転がり落ちる。
痛みが全身を駆け巡る。頭の中がズキズキと痛む。膝も擦りむけて血が滲んでいる。
それでも、早く追わないと。強い意志で立ち上がり、また走り出す。痛みを無視して、ただ前に進む。
やっとのことで体育館にたどり着くと、バスケ部の部員たちが集まっていた。体育館の広々とした空間に、バスケットボールの弾む音が響いている。彼らの活気とエネルギーに圧倒され、足がすくむ。
勇気を出して、足を踏み入れる。緊張で手が震え、心臓が早鐘のように鳴る。部員たちの視線が一斉に私に向けられるのを感じ、その圧力に押し潰されそうになる。
「あ、あの……」
一斉に視線が集まる。
「ひ、
声が震えるのを抑えられない。
周りのバスケ部の人たちから声が上がる。
「おーい、
「モテモテだなー」
心を読んでしまうのが怖くて俯く。視線が突き刺さるように感じ、顔が熱くなる。
「お前、たしか
「なにか用か?」
「遊びたいんだってよー」
「俺にも紹介してくれよー」
もう、本当に嫌だ、でも
「うるせぇぞ、黙れ!」
「は?お前、先輩に向かってなんだよ」
後ろにいた人たちが不満そうに口を開くが、
そんなのはお構いなしのように、
「ここじゃうるさいから場所変えようぜ」
階段下で立ち止まる。
「それで?何か用?」改めて
顔を見るのが怖くて、ただ真っすぐ
「あの、
「なんだよ、さっきの話か。それで?」
「
「はぁ?俺が悪いってのか?」
「ち、ちがくて……」
「あいつが俺のカバン蹴っ飛ばすのが悪いだろ!それにあの態度!」
「何も言わないで突っ立って、俺は悪くありませんってか?ふざけんなよ!」
彼の怒声に身体が震え、目が潤むのを感じる。しかし、負けてはいられない。だが、彼の勢いに圧倒されて、言葉が出てこない。無言のまま、私はその場に立ち尽くす。
1呼吸置いて、
「てか、お前には関係ない話だろ。部活戻るわ」
彼はそのまま背を向け、帰ろうとする。その背中が遠ざかるのを見て、私は再び勇気を振り絞り、もう一度声をかける決意をした。
「関係なくないよ!
必死に呼び止める。心の中で勇気を振り絞り、全力でぶつかる。
「なんだそれ、女に助けてもらうなんて情けねぇ」
「情けなくなんかないよ!
声が震え、涙が頬を伝う。これまで抑えていた感情が一気に溢れ出す。息を切らしながら
「わ、わかったから、ちょっと離れろ」
涙で視界がぼやける中、私は初めて自分の気持ちを叫ぶことができた。
その瞬間、後ろからもうひとつの大きな影が現れる。
「
普段の大人しい彼とはまるで別人のような、怒りと決意に満ちた声が響き渡る。
「次から次へとなんだよ……」
「
私は全力で
「
事情を説明すると、
「お前、ちゃんと喋れるじゃねぇか」
「あ、
それを聞き、
「まぁ、その、俺も悪かったな。ついカッとなることが多くて……」
二人はお互いの誤解が解けたようだ。
「それにしても、
「
私は
「あ、
心を読むと、彼の心の中からも感謝の声が聞こえてくる。
『
(あの時の声、聞こえてたの!?)
とても恥ずかしくなって頭が熱くなる。
「あ!」
「ち、血!
言われて急に痛みがくる。痛みの場所を触ってみると、手に赤い血がついていた。
「大丈夫……」
答えながらも、目の前が少し揺れる。
「急いで保健室に行こう。早く!」
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