【7話:後編】泳ぐたこさんウインナー

 教室の一角に3人が集まり、お弁当を広げた。


 私のお弁当はお母さんが作ってくれていて、私の好きなマカロニサラダが入っている。


 柚月ゆづきのお弁当は、いかにも女子高生という感じで彩り豊かだった。


 朝霞あさかくんのお弁当は、私たちのものの2倍くらいの大きさで、ボリュームもたっぷり。その中でひときわ目立つのは、たこさんウインナーが泳ぐようにご飯の上にまばらに乗っかっていた。


「えー、朝霞あさかくんのお弁当、めちゃ可愛いんだけど!」


 柚月ゆづきのテンションが上がっている。


「あ、ありがとう」


 朝霞あさかくんは少し照れ臭そうに答えた。


「え、もしかして自分で作ってるの?」


 柚月ゆづきはグイグイと話しかける。


「う、うん。りょ……料理が少し得意で」


 朝霞あさかくんが照れながら答えた。


朝霞あさかくん、料理できるんだ。かっこいいな……)


 私は彼の細くて長い指を見つめ、包丁さばきを想像した。


朝霞あさかくん、すごいね」


 私は素直に感心して声をかけた。


 朝霞あさかくんは嬉しそうに笑い、少し照れくさそうに顔を赤らめた。


愛月あいづきさんに褒められた……嬉しい』


 彼の心の声が聞こえてきて、私もその喜びが伝わってきた。


「それにしても、たこさんウインナー、本当に泳いでるみたい!」


 柚月ゆづきが楽しそうに笑いながら言った。


「うん、すごく可愛い!」


 私は笑顔で答えた。


「よかったら、今度、おかずでも作ってくるよ」


 朝霞あさかくんが提案してくれた。


「え!いいの!食べたーい!」


 柚月ゆづきのテンションがさらに上がる。


「す、好きなおかず教えて」


 朝霞あさかくんが少し照れながら尋ねる。


 柚月ゆづきが私を見る。


心結ここなちゃんは何が好きなのー?」


 私は彼の目を見つめながら真剣に考えた。


「な、なんでもいいよ」


 朝霞あさかくんが少し緊張しながら答える。彼の心の声が聞こえてきた。


『何を作ったら喜んでくれるだろう?』


 たこさんウインナーを見ていると、頭の中で想像が膨らんでいく。ウインナーがまるで海の中を泳いでいるように見えて、その光景が頭の中で広がる。海の中には色とりどりの魚たちが泳ぎ、クラゲがふわふわと漂っている。そして、そのクラゲを見ていると、春雨のイメージが浮かんできた。


「うーん……じゃ、じゃあ春雨!が……たべたいな。」


 私は微笑みながら答えた。


「わかった!」


 朝霞あさかくんは元気に返してくれた。


『れ、練習しなきゃ』


 彼の心の声も伝わってくる。


「楽しみにしてるね」


 私は笑顔で答えた。


「か、柑奈かんなさんは?」


 朝霞あさかくんが尋ねる。


 柚月ゆづきは私の方を見ながら、にやにやする。


心結ここなちゃん、私の好物当ててみて!」


「え、難しいよ」


 と私は答えるが、とっさに柚月ゆづきの目を見てみる。だんだんとイメージが伝わってくる。紫色の何やら丸い集団が動いている。円を描きながら踊り出す。


(なにこれ、わからない。)


 次に、緑色の四角がピーマンの切り口のように見え、オレンジ色の三角がニンジンのように交わる。頭の中に次々と浮かんでくる謎めいたイメージに、私は無意識に顔を柚月ゆづきに近づけてしまった。お互いの鼻が当たる。


「わ、心結ここなちゃん近い。ちょっと、近い!」


 柚月ゆづきは少し驚いたように目を見開く。


 私はそれでもイメージを追いかけるように目を凝らした。だんだんと形が整ってくる。


「これは……麻婆茄子?」


 恐る恐る答えると、柚月ゆづきは驚いて私の肩を揺さぶった。


「ええ!心結ここなちゃんどうして分かるのー?」


「な、なんとなく。ゆ、ゆらさないで。」


 私は笑いながら答えた。


 柚月ゆづき朝霞あさかくんの方に振り向く。


朝霞あさかくん!激辛でお願いね!」


 朝霞あさかくんは、柚月ゆづきの元気さに驚きながらも、


「ま、まかせて!」


 とニコリと笑った。


 柚月ゆづきがふと提案した。


「ねえ、心結ここなちゃん連絡先交換しよ?朝霞あさかくんも!」


「し、したい!」


 私は嬉しくてスマホを机の上に出す。柚月ゆづきが見守る中、心臓がドキドキと高鳴る。


朝霞あさかくん、連絡先交換しよう」


 と私は少し緊張しながら言った。


 朝霞あさかくんも頷き、


「う、うん、ぜひ」


 彼の顔には少し照れくさそうな笑みが浮かんでいる。


「え、二人は今まで連絡先交換してなかったの?!」


 柚月ゆづきが驚いた表情で言った。


「うん、なんだかタイミングがなくて……」


 私は恥ずかしそうに答えた。顔が少し赤くなるのを感じる。


 朝霞あさかくんも同じように顔を赤らめている。


「よし、これで3人でグループを作ろう!」


 柚月ゆづきが明るく提案する。


 こうして、私たちは3人で連絡先を交換し、グループを作った。スマホの画面に表示された朝霞あさかくんの連絡先に、私は内心の喜びを感じる。


「グループ名、どうしようか」


 柚月ゆづきがつぶやく。


 柚月ゆづきが思いついたかのように、


「今日のお弁当から名前を取って、『泳ぐタコさんウィンナー』にしようよ!」


「え、それ面白い!」


 私は笑顔で賛成した。朝霞あさかくんの顔にも笑顔が浮かぶ。


 こうして、私たちは「泳ぐタコさんウィンナー」としてグループを作った。


 柚月ゆづきがいてくれたから、朝霞あさかくんとの距離がまた少し縮まった気がする。私は心の中で感謝の気持ちを抱きながら、これからの楽しい日々に期待を膨らませた。



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 次回、8話 霧の中の灯火


 颯太そうたが偶然蹴ってしまったバスケ部のバッグが引き金となり、エネルギッシュで恐ろしい日之都悠真との間に緊張が走る。


 激昂する悠真の鋭い視線に、教室の空気が一変。


 心結ここな颯太そうたを守るため、恐怖を乗り越えて立ち向かう決意をする。


 迫りくる危機に、二人の絆が試される!


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