【5話・前編】授業の中で芽吹く約束
朝、登校する途中で
私たちは「おはよう」とだけ言って、一緒に歩き始める。言葉は少ないけれど、その静けさが心地よい。
(こんな風に並んで歩けるだけで幸せだな……)
そう思いながら、私は自分の心が少しずつ彼に惹かれているのを感じていた。胸の奥が温かくなり、ふわふわとした気持ちが広がっていく。彼の歩幅に合わせて一歩一歩進むたびに、心が満たされていくのがわかった。
学校に近づくにつれて、周囲の雑音が増えてきた。友達同士の楽しそうな会話や笑い声が聞こえ始める。私は少しだけ歩くスピードを速めた。
(
そんなことを考えながら、私は一日の始まりに少しだけ期待を抱いた。
学校に着くと、ホームルームが終わり、1時間目の国語の授業が始まった。クラスメイトたちはそれぞれの席で教科書を開き、集中している。私は教科書のページをめくりながら、心の中で今日の授業に備えた。
授業が進むにつれ、先生が教室内を見回しながら質問を投げかけた。
「この一節の意味を解釈できる人はいますか?」
その瞬間、先生の視線が私に止まった。心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。けれど、この前の自信が少しだけ心を落ち着かせてくれる。
「
突然の指名に驚いたが、私は冷静に立ち上がった。自分の心臓の音が耳に響くけれど、観察力と考える力には自信があった。私は教科書を見ながら、ゆっくりと答えをまとめ始めた。
「は、はい。この文章では、作者が自然の美しさと人間の感情の結びつきを表現しています。特に、『夕陽が山の稜線を染め……」
答えには自信があったが、話すのはあまり得意ではないため、小さな声で答えた。
教室全体が静まり返り、私の声が響く。心臓の鼓動が耳に響きそうなほど緊張していたが、教室全体が私の言葉に耳を傾けているのを感じた。
先生は頷きながら、
「素晴らしい解釈ですね。
先生が言い終えると、私は席に戻りながら一息ついた。周りのクラスメイトたちが軽く拍手をしてくれるのを聞き、少しずつ学校生活に馴染んでいる実感が湧いてきた。
隣の席の
「すごいね」
と言ってくれた。その言葉に、少し照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
しかし、心の奥底では、
その後、授業が進むにつれて少しずつリラックスしていくのを感じた。視界も広がり、周りのクラスメイトたちの表情や反応にも気づくようになってきた。教室の外から聞こえる鳥のさえずりや、風が窓を揺らす音が静かに響き渡り、教室内の静寂が心地よかった。
次の時間は数学の授業だった。私はまたもや先生に当てられた。
「また最初の席だから当てられるなんて……」
と内心で文句を言いながら、黒板の前に立った。
数学は私の得意分野ではなかった。黒板に書かれた二次関数の問題を見つめて、答えが全く浮かばない。教室の静けさが重くのしかかり、心臓がドキドキと音を立てる。汗が額ににじみ出てきて、手のひらがじっとりと湿る。焦りと不安が募り、周囲の視線が怖くなる。
(先生の心を読めば答えが分かるかもしれない……)
と一瞬考えたが、その時、
彼の目が私を捉え、静かな信頼が感じられた。彼を信じて目を見てみると、
その瞬間、彼の心の中に浮かんだ答えがまるで水面に映る月のように静かに、しかしはっきりと私の頭に浮かび上がってきた。数学の解法が、一つの光の筋となって私の心に差し込んでくる。
彼の心を完全に頼り切ってしまっている自分に気づいたが、それでも構わなかった。
私は恐る恐る黒板に答えを書き込んだ。
先生は驚いたように
「よくできました」
と言い、教室内の緊張が一気に解けた。クラスメイトたちの視線が一斉に私に向けられ、感嘆の声が上がった。
「
隣の席の
授業が終わり、私は黒板を消すために教室の前に立った。黒板にはまだ授業の痕跡が残っており、チョークの粉が薄く舞っていた。
「ありがとう」
私は小声で言った。彼は少し驚いた表情で
「なにもしてないよ?」
と困惑していた。
「いいの」
私は微笑みながら答えた。心の中で嬉しさがあふれそうになり、感謝の気持ちが止まらなかった。私しか知らない秘密の心の声に助けられたことを思い出し、その思いを込めて「ありがとう」と言ってしまった。
少しご機嫌になりながら、黒板を消し続けた。黒板の文字が消えていくたびに、心の重みも少しずつ軽くなっていくようだった。
☂後編に続く☂
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