【3話・後編】黒板の音、二人の距離
昼休み、顔も少し冷めたところで、
「
「ううん……ありがとう」
私は小さな声で首を横に振りながら答えた。
「あー良かった。私、空気読めないこと多くて」
それは確かにと内心思いながらも、放送委員に代わってもらった罪悪感が胸に広がった。彼女の言葉に少しホッとする反面、どこか申し訳ない気持ちもあった。
「でも……」
「気にしないで!放送委員も面白そうだし、私がやりたかったのもあるから」
(
その時、
「
「ええ!?」
びっくりしすぎて、大きな声が出てしまった。
「そ、そんなに、見てないよ?」
小声で返す。顔が一気に赤くなったのがわかる。心臓がますます早くなった。
「
と言いながら友達のグループに戻っていった。
(き、きをつけねば……)
周りのクラスメイトが再び笑い声や会話を再開する中、私は深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。
☂ ☂ ☂ ☂ ☂
書記の当番は、1週間交代で毎日おこなう。授業後に黒板を消すのと、クラス会議などがある際の板書が主な仕事だ。他の仕事内容と比べて簡単だからか、回ってくる回数が多くなっている。私と
授業が終わり、クラスメイトの話し声を背に、2人で黒板を消し始めた。教室の窓から差し込む夕日が、黒板に反射して温かな光を放っていた。
「いいよ」
と言い、私の隣に立ち、黒板の上の方を消し始める。
(おおきいな……)
隣に並ぶと、
突然、私の頭にフラッシュバックが起こる。中学生のある日のこと。教室で一人、誰にも気づかれないように泣きながら黒板を消していた。そのときの孤独感と悲しみが胸に蘇る。
「……」
私の手が震え、黒板消しが手から滑り落ちそうになる。その瞬間、隣にいる
「だ、大丈夫……?」
「ごめんね、ただ手が滑っただけなの」
黒板を消している間、私の視線は自然と
「ありがとう、
「お、俺の方こそ、あ、ありがとう。書記のきっかけ、くれて……」
彼の一言で、温かな気持ちが胸に広がった。
全て消し終わった後、二人で黒板の前に立っていた。教室から聞こえるクラスメイトの笑い声が遠くに感じられ、まるで私たちだけの世界にいるような気がした。
窓から差し込む夕日の光が、彼の背中を照らし、その影が私にかかる。心の中で、小さな温かさが広がっていく。
こんな風に少しずつでも、彼と話せるようになりたいと思った。
クラスメイトたちの笑顔や声が、少しずつ心に響くようになってきた。自分もその中に入っていけるかもしれないという希望が、私の心に芽生えた。そしてその希望は、これからの学校生活を乗り越えるための力となるだろう。
夕日が沈むまで、私たちは静かに、でも確かな絆を感じながら、その瞬間を共有していた。
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次回、第4話:ノートに綴る星空と水槽
放課後の静かな図書室で、偶然颯太と出会った心結。
お互いの趣味を語り合い、二人の距離が縮まる中、筆談で交わされる秘密の会話が心をときめかせる。
彼の意外な一面に触れた心結は、さらに興味を抱く。
果たしてこの特別な時間が二人にどんな影響を与えるのか──。
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