第26話 祐大に真実を伝える
優愛とひとときを過ごしていると、資産家の息子に声をかけられる。
「山小鳥遊君、ちょっとだけいいか?」
「僕に何か用?」
祐大は下唇を軽く舐める。
「いろいろと確認したいことがある。誰にも聞かれないところで、話をしたいんだけど・・・・・・」
「いちるをさらに苦しめないで・・・・・・」
優愛の目つきは、祐大を完全なる敵とみなしていた。
「心さんも話に加わってほしい。葛音の流している情報について、本当のことが知りたいんだ」
冤罪を事実とみなす、他のクラスメイトとは明らかに視点が異なっている。もしかしたらだけど、この人なら話を聞いてくれるかもしれない。かすかな期待を抱いて、事実を伝えることにした。
「やっぱりか。そんなことだと思っていた。あいつは人間性が腐っているからな」
交際しているからこそ、葛音の正体を見抜けたのか。細かい部分についてはわからなかった。
「山小鳥遊君の話を聞いて、こちらも決心がついた。あいつとはすぐに別れることにする。痴漢をでっちあげるような女は、絶対にありえないからな」
痴漢冤罪をぶちまけたことで、大切な存在まで失う。結論だけいえば、本末転倒といえよう。
「山小鳥遊君、生活はどうなっているんだ」
「家族に捨てられたから、優愛の家族に拾ってもらった。新しい環境で、新しい生活を送っているよ」
元の環境における生活は、永久的に不可能となった。生き残るためには、第三者の助けを必要とする。
祐大は頭を下げる。
「何もしてやれなくて悪かった」
いじめに安易に加担しなかっただけ、他よりはましといったところか。すぐに助け船を出そうとしなかったのは、れっきとした事実である。
「心さん、あいつを地獄に落とす方法を考えた。山小鳥遊君の名誉のためにも、協力してほしい」
優愛はコクリとうなずくだけ。学校では必要最小限のやり取りにとどめている。
「一縷、おなかすいた・・・・・・」
「優愛、朝をしっかりと食べなよ・・・・・・」
優愛は朝食抜きで、学校にやってきた。
「一縷、体のお肉を分けてほしいんだけど・・・・・・」
「優愛、無茶をいうな。体の肉を食べても、ちっともおいしくないうえ、栄養もちっとも得られないぞ」
「一縷のお肉を食べたい・・・・・・」
二人の会話を聞いて、祐大は手をポンとたたいた。
「ふと気になったんだけど、二人は交際しているのか?」
「そういう間柄ではないけど・・・・・・」
交際しているのかと聞かれると、答えはノーである。その部分については、正しいことをいっているつもりだ。
「一縷と同じ部屋で生活しているんだ。着替えについても、一緒にやることになったんだよ」
優愛の話が終わった直後、祐大から大袈裟なため息がもれた。
「山小鳥遊君、君は女・・・・・・」
優愛はこれまでにない大声で、祐大の話を遮断する。
「本心はふせ・・・・・・」
「わかった。心さんのいうとおりにする」
優愛は見せつけるかのように、一縷の腕を胸に食い込ませる。
「一縷と二人になりたい・・・・・・」
「わかった。邪魔をして悪かったな・・・・・・」
祐大はいなくなったあと、優愛は腕の力を強めた。
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