第25話 睡眠時はタオル一枚ではなかった

 おなか一杯食べたものの、体にちょっとした違和感があった。食事抜きにされたことで、異変が起きていなければいいけど。


 たっぷりと食べたからか、体は睡魔に襲われた。


「一縷、そろそろ眠ろう」


 室内に用意されている布団は一つだけ。二人で眠るには、一人分不足している。


「布団が一つしかないんですけど・・・・・・」


 押し入れの中を確認するも、布団は入っていなかった。


「私の部屋にある布団は一つだけだよ」


 優愛を地べたで眠らせるのはNG。彼女が布団で寝られるよう、ある提案をすることにした。


「僕は地べたで寝るから、優愛は布団で・・・・・・」


 優愛は首を振った。


「そんなことはしないよ。一つの布団で、一緒に眠るんだよ」


「優愛の体温を感じ続けたら、心拍数を制御できなくなる」


 タオル一枚の優愛さんと眠ったら、朝まで目を開けたままになりそうだ。


「一縷が慣れるまでは、背を向けて寝ることにするよ。これなら、問題なく寝られるでしょう」


 体をぴたりとくっつけるよりは、安眠できるかも。単純な男は、そのように考えた。


「睡眠をとるときは、シャツ、パンツだけは身に着けることにしているの。タオル一枚で眠ると、調子を崩すことが多いもの」


 シャツ、パンツだけの睡眠は、タオル一枚と大差はない。


「一縷、シャツ、パンツだけになりなさい」


「シャツ、パンツだけだと、少し肌寒いような・・・・・・」


 夜間の気温は17℃前後。パンツ、シャツだけだと、肌寒さを感じる。


「暖房をガンガンにかける。これで寒くないでしょう」


「わかったよ・・・・・・」


 エアコンの温度を上げても、シャツ、パンツだけだと肌寒さを感じる。


 同じ布団に入ってすぐ、二つのおしりが重なった。免疫の低い男は、極度の興奮状態に陥った。


「エッチ・・・・・・」


「あの、その・・・・・・」


「わざとじゃないことは、わかっているよ。それでも、からかってみたくなったんだ」


「優愛、学校とは全然違うね」


 優愛は息を吐いた。


「そうだね。でも、昔はよく笑っていたし、ジョークも飛ばす女の子だったんだよ」


 高校生活とはあまりにかけ離れた姿。彼女に何かあったのだろうか。


「赤の他人と話をしたのは、5年ぶりくらいかな。それまでは、口を聞くことはほとんどなかったよ」


「5年間も話さないと、寂しくなかったの?」。


「きついのは最初だけだったよ。一人になれてしまうと、胸はすっと楽になったよ。人間関係はいろいろと面倒だってことに、ぼっちになってから気づいたんだ」


 独りぼっちになったことを、ポジティブにとらえようとする女性。鋼のメンタルを持っていると思った。


「一縷、別々に眠ろうか。背中は合わせはドキドキしすぎて、不眠症になりそう・・・・・・」

 

「布団はどうするの?」


「おねえちゃんの部屋に、3枚くらいの布団があるんだ。当分はそれで眠ることにするよ」


 予備の布団があるなら、最初からそうすればいいのに。優愛の体温を感じながら、そのようなことを考えていた。


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