第24話 一縷の父はおとうさんの部下?(優愛編)

 トイレをすませたあと、おとうさんに呼び止められた。


「優愛、山小鳥遊君と生活するのは楽しいか?」


「うん、すっごく楽しいよ」


 一昨日までなら、振り向くだけだった。声を出すようになったのは、心境に大きな変化がもたらされたからである。


「そうか、それならいいんだ」


 一縷と一秒でも長く過ごしたい。その思いは、心を部屋に向けさせた。


「おとうさん、一縷のところに戻ってもいい?」


「山小鳥遊君に挨拶をしたい。呼んできてくれないか・・・・・・」


 新しい家族となるのだから、挨拶くらいは済ませたほうがいい。


「わかった、すぐに呼んでくる」


*山小鳥遊君とおとうさんの対面

 

 一縷は頭とおなかがくっつきそうなほど、深々と頭を下げる。


「山小鳥遊一縷といいます。今日からお世話になります」


「優愛の父で、心○○といいます。娘のことをよろしくお願いします」

 

「僕なんかで力になれることがあれば・・・・・・」


「山小鳥遊君。疲れているだろうから、しっかりと休みなさい」


「ありがとうございます・・・・・・」


 一縷は一礼すると、部屋に戻っていく。あとに続こうとすると、おとうさんにストップをかけられる。


「優愛にもうちょっとだけ話がある。すぐに終わるから、ここにいなさい」


「わ、わかったよ」


*おとうさんと山小鳥遊君の家族は同じ会社


「山小鳥遊君はどことなく、在職中の係長に似ている。もしかしたらだけど、実の父親かもしれない」


 おとうさんの勤めている会社に、一縷の父親が在籍しているとは。世間は広いようで、ものすごく狭いと思った。


「そ、そうなの・・・・・・」


 おとうさんは顎にゆっくりと手を当てる。


「確信は持てないけど、瞼などはそっくりなんだ・・・・・・」


「一縷のおとうさんだと判明したら、どうするつもりなの?」


「息子を殺そうとするような男を、会社にはおいておけないだろ。退職推奨をして、退職させる。退職を拒否すれば、殺害しようとしたことを警察に通報すればいいだけの話。ボイスレコーダーがあるから、完全に詰んでいる状態だ」


 おとうさんは緑茶を飲んだ。


「どんなに疑われたとしても、家族だけは信じてやるものだろ。殺そうとするなんて、言語道断だ」


 世間から孤立したとき、おとうさん、おかあさん、おねえちゃんだけは味方してくれた。ぼっちだった女性にとって、ものすごく心強い存在だった。


「一縷に確認はしないの?」


「虐待を受けたことで、いろいろと疲れているだろう。ゆっくりと休ませてあげなさい」


「わかった・・・・・・」


「タオル一枚で過ごすのはいいけど、睡眠妨害だけは絶対にやめておくように。しっかりと休まないと、生命の危機に陥るぞ」


 高校生になっても、幼稚園児さながらに扱われるなんて。おとうさんに対して、表情で抗議した。


「おとうさん、わかっているよ」


 おばあさんは睡眠を削りすぎたために、交通事故で他界することとなった。そのことがあってから、寝ることに対する意識は強くなっていた。

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