第23話 三日ぶりのまともな夕食

 夕食を見た瞬間、瞳から涙がこぼれた。


「山小鳥遊君、どうしたの?」


「ご飯を食べられることが嬉しくて、嬉しくて・・・・・・」


 テーブルに並んでいるのは、30個くらいのから揚げ。これだけで、おなかは十分すぎるほどに満たされる。


 から揚げの横には、豚汁が据えられていた。熱々の湯気は、食欲を大いに刺激する。


「おかあさん、ありがとうございます・・・・・・」


 から揚げを食べようとする前に、おなかに痛みを感じた。優愛からもらった弁当を食べすぎたことが、今になってじわじわと聞いてきた。


「山小鳥遊君、どうしたの?」


「昼に食べすぎたらしくて・・・・・・」


 昨日の夜、朝に何も食べていなかったのに、おなかに痛みを感じるなんて。食事をとれなかったことで、腸内のバランスが崩れている。


「山小鳥遊君、無理をしなくてもいいよ」


「せっかく作っていただいたのに・・・・・・」


「おなかを壊したら、元も子もない。残りについては、明日の弁当に・・・・・・」


 弁当にから揚げを入れると聞かされた、優愛は不満をたらたらといった。


「おかあさん、違うものを食べたいんだけど・・・・・・」


「優愛、食材を無駄にするものじゃありません」


「わ、わかったよ・・・・・・」


 優愛の視線は、こちらに向けられた。


「一縷、から揚げを「あーん」で食べさせて・・・・・・」


 優愛は口を大きく開けると、優愛のおかあさんは大きなため息をついた。


「優愛、わがままをいってはいけないよ・・・・・・」


 注意された当人は、意に介す様子はなかった。


「一縷、「あーん」をして」


 優愛は命の恩人。リクエストを却下するのは失礼にあたる。


「一縷に食べさせてもらうと、から揚げは格段においしくなるね」


 二人の様子を見ていた、優愛のおかあさんが頭を下げる。 


「山小鳥遊君、すみません・・・・・・」


「いえいえ、これくらいなら・・・・・・」


 優愛は唐揚げを取ると、こちらに伸ばしてきた。


「一縷、あーん・・・・・・」


 から揚げを持っている箸からは、私のとったものは食べるよねという、強いニュアンスを感じた。


 あーんされた唐揚げを、大きな口を開けて食べる。味わう間も与えられることなく、優愛は次のから揚げを取った。


「一縷、あーん♡」


 から揚げを食べ終えると、別のから揚げがすぐに口元に運ばれた。

 

「一縷、あーん♡」


「優愛、ゆっくりと食べたいんだけど・・・・・・」

 

「一縷、あーん♡」


 5個目のから揚げを食べたところで、優愛の箸は一時的にストップする。解放されたことで、少しばかりの落ち着きを取り戻す。


 豚汁をスプーンですくうと、こちらに向けてきた。


「一縷、あーん♡」


 から揚げだけでなく、豚汁もあーんで食べるのか。自分のペースで食事をとりたい。優愛のおかあさんはそれを察したのか、娘に注意を行った。


「優愛、好きに食べさせてあげなさい」


 優愛はまっとうな意見をいわれ、眉間に大量の皺を寄せていた。


「おかあさん、好きにしたいんだけど・・・・・・」


「山小鳥遊君のことを考えてあげなさい。自分のペースで食べたいと、目で訴えかけているよ」


 優愛の二つの瞳はこちらに向けられた。凄みのきいた眼は、威圧感を放っていた。


「一縷、自由に食べたいの?」


「う、うん・・・・・・」


「それなら、好きに食べていいよ・・・・・・」


「優愛・・・・・・」


 優愛は唐揚げを二つほど食べると、席をゆっくりと立った。寂しそうな瞳を見ていると、悪いことをしたのかなと思えてならなかった。

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