第9話 ライン(葛音編)

 ラインを3時間前に送るも、返信はまだだった。


 返信は早いほうではないけど、今日は特に遅いと感じる。メンタルを安定させるためにも、一秒でも早い返信をお願いしたいところ。


 不安を和らげるため、祐大にラインを10件送信。これだけの数を送れば、さすがに気づいてくれるはず。


 祐大のお嫁さんになれば、大金を意のままに操る権利を得られる。どんな手段を用いたとしても、絶対に籍を入れて見せるんだから。


 葛音のスマホに、ラインが送られてきた。祐大からかなと思っていると、別人となっていた。


「痴漢で辛いだろうけど、必死に前を向いてね」


 痴漢冤罪を信じる女に、感謝の気持ちを伝える。


「ありがとう・・・・・・」 


「痴漢を働いたくせに、よく学校に来れるわよね。どんな神経をしているのかしら」


「そうだよね。絶対にありえないよね」


 冤罪であったとしても、既成事実にしてしまえばいい。社会は正しい、間違っているではなく、やったもの勝ちの側面が強い。


 友達とやり取りしていると、祐大からラインを受け取る。


「×・・・・・・」  


 祐大はあまりに忙しくて、×一文字のラインを送るのが精いっぱいのようだ。そのことがわかると、胸はすっと軽くなった。


「時間の空いたときに、ラインを返してくれればいいよ」


 玉の輿になるためには、心の広さを見せておくことも必要。本音ばかりぶつけるようだと、相手から逃げられる。


 祐大からのラインはその後、送信されることはなかった。寂しさを感じつつも、前を向いていこうと思った。

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