第11話 娘のきらきらとした目(○○の父編)

 美恵子は頭を下げる。


「さっきはごめんなさい。あなたの意思を確認することなく、OKをしてしまった」


 罪悪感に駆られている、妻の肩に手をのせた。


「そのことは気にするな。こちらもすぐにOKしようと思っていた。放置しておいたら、優愛の信じようとしている人を殺すことになる」


 娘はあの出来事があってから、目は完全に死んでいた。一度のトラウマは、深い傷を残した。


「ご飯を食べなければ、人間はいずれ死ぬ。やまことり君の家族がやっていることは、完全に殺人に該当するレベル。いますぐに救ったほうがいい」


「にわかには信じがたいけど・・・・・・」


 目の前に置いてある、ブラックコーヒーを啜った。


「こちらの推測で、決めつけるのは邪道だ。やまことり君がやってきてから、ゆっくりと話を聞けばいい」


「ご飯を食べていないのであれば、今すぐに保護すべき案件だと思うけど・・・・・・」


 美恵子の意見に、深く頷いた。


「そのとおりだけど、時間的に厳しい。彼の生存を祈ることしか、我々にはできないよ」


「山小鳥遊君の身に何かあったら・・・・・・」


 二人の会話しているところに、優愛がやってきた。


「私の弁当を全部与えたあと、パンを二つわたした。完全とはいえないけど、少しくらいは足しになるはずだよ」


 夕食にいつもよりたくさん食べたのは、一縷に昼食を分け与えたからだった。


「優愛・・・・・・」


「明日は巨大弁当を作っていくよ。これを全部食べれば、元気を取り戻せると思う」


 人間不信の娘が、率先して弁当を作っていくなんて。昨日までなら、一ミリも考えられなかった。


*姉に電話


「優心には、きっちりと伝えておこう・・・・・・」


「そうだな。それだけはやっておかないと。男の人が急に同居したら、びっくりするでしょうね」


 カバンからスマホを取り出すと、優心のところに電話をかける。


「とうさん、どうしたの?」


「少しだけ話をしたい。時間は大丈夫か?」


「うん、いけるよ」


「優愛からの頼みで、男の人を預かることになりそうだ。期間については、どれくらいになるのかはわからない」


「あの子が、そんなことを・・・・・・」


 優愛の姉は息を吐いた。


「あの子が元気になるなら、私は両手を挙げて賛成するよ。明日から連れてきていいよ。ただ、タオル一枚は、やめさせたほうがいいと思うけど・・・・・・。相手は男だから、何をするかわからないし・・・・・・」


「こちらも伝えたけど、裸を見られても、体を触られてもいいといっていた・・・・・・」


「それなら、気にすることはないよ。女は本気で信じた男には、どんなことだってできるんだから・・・・・・」


「そっか。それなら・・・・・・」


「一刻の猶予を争うなら、すぐに救ったほうがいいと思うけど・・・・・・」


「下手に家の前をうろつくと、警察に通報されるリスクがある。明日になってから、行動を起こしたほうがいい」


「そうだね。明日になってからがよさそうだね」


 一日くらいならどうにかなるはず。彼の無事を祈ることしかできなかった。

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