第44話 役立たず(一縷の父親編)

 妻、娘は自宅に戻ってきた。しぼんだ表情からは、収穫を得られなかったのはすぐに伝わってくる。


「全くダメだった・・・・・・」


 未来に対する焦りからか、怒気を含んだ声で注意する。


「おまえら、何をしているんだ。どんなことがあっても、こちらに連れ戻してこないとダメだろ」


 ただ飯を食わせてやっているのに、これくらいのこともできないのか。不良妻、不良娘を持ったことは、人生における汚点といえる。

 

「それなら、あんたがいけばいいでしょう。他人任せにしながら、自分の安全を確保しているじゃない」


「そうだ、そうだ。自分で行け・・・・・・」

 

 危機的状況に陥ったことで、家族の関係は急展開で壊れようとしていた。


「明日の朝に、部長から話があるといわれた。一縷の件で、厳しい処分を下されることになりそうだ。あちらで話を聞いていたなら、包み隠さず話してくれ」


 私服でいい=社員扱いをやめるということ。解雇を含めた、厳しい処分を下されると思われる。


 妻は目をつむった。


「今回の件で、退職推奨もしくは解雇するといっていたわよ。私たちの未来はどうなっていくのかしら・・・・・・・」


 解雇処分を下されれば、退職金は0。ローンを返すためのお金は、完全に滞ることになる。部長と話をして、自主退職という形で話をまとめねば。


「冤罪だと主張してくれればよかったのに。そうすれば、ここまではやらなかったのに・・・・・・」


「そうだ、そうだ。わるいのはおにいちゃんだ」


「あいつのせいで、俺たちの人生はめちゃくちゃになった。それにもかかわらず、あいつだけは悠々自適な生活を送っている。こんなことが許されていいのか」


 元々といえば、あいつがろくでもない女と交際したために、今回の悲劇にあっただけの話だ。ろくでなしの失敗の責任を、どうして俺たちがとらなくてはいけないんだ。


「知恵、ビールを持ってこい。アルコールを大量に飲んで、一時的に記憶をなくす」


「そんなことをしても・・・・・・」


「うるさい。ビールをとっとともってこい。亭主様を怒らせると、どうなるかわかっているよな」


「わ、わかったわよ・・・・・・」


 知恵はしぶしぶビールを取りに行く。普段なら何も思わないけど、今だけは恨めしく思えた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る