第43話 これまでで一番怖いおとうさん(優愛編)
おとうさんは扉を開けたあと、厳しい一言を放った。
「血のつながった人間を殺害しようとした、係長の妻と娘か。いまさら、何をしにきたんだ?」
一縷の母、妹のうろたえた声が聞こえる。
「私たちはそんなこと・・・・・・」
「ごはんと水分を取らせなかったと聞いている。山小鳥遊君が自分から食べなかったことにして、自殺で処理しようとしたんだろ。最低最悪のことをしたクズたちに、合わせるとでも思っているのか」
いつもは温厚な父は、厳しい言葉を使っている。一縷を殺害しようとしたことを、本気で許せないようだ。
「今後は一切かかわらないという、誓約書をもらった。あんたたちは、完全に縁は切れているはずだ」
「気が変わって・・・・・・」
おとうさんは二人の心境を読み取っていた。
「自分たちの立場が危うくなりそうだから、あわてて駆け込んできたのか。ろくでなしの考えることは、自己保身ばっかりだな」
図星だったのか、二人は言葉を発せなかった。
「社長に話をして、山小鳥遊君を朝一番で退職させることになった。殺人未遂犯を会社に置いておくわけにはいかないだろ。退職勧告を突っぱねるなら、山小鳥遊君に了承を得てから、殺人未遂で警察に通報するだけの話。そのときは退職推奨ではなく、懲戒解雇になるがな。おまえたちはどの道を進んだとしても、完全に詰んでいる」
50くらいのおばさんの、力のない声が聞こえる。
「そ、そんな・・・・・・」
絶望感を味わっている二人に対して、父はボイスレコーダーを聞かせる。
「おまえたちの発言を録音したものだ。証拠もきっちりと押さえてあるから、逃げることもできないぞ」
狂気じみた声で、「死ね」、「消え失せろ」などといっている二人。息子に対する殺意は100パーセントを凌駕している。
「山小鳥遊君の近くの住民から聞き取りも行った。テープレコーダーよりもえげつない証言をたくさん得られた。おまえたちのやったことは、完全に殺人未遂だ」
住民から聞き取りまでしているとは。おとうさんは証拠集めに、ぬかりはなかった。
「山小鳥遊君は我が家の大切な家族だ。こちらとしては、最大限の誠意をもっておもてなしをしていく」
話を聞いていたのか、一縷は姿を見せる。
「おとうさん、それは本当ですか?」
「ああ。一人の大切な家族として、愛情をもって育てていく」
一縷を殺そうとした母、娘は最後の悪あがきに出た。
「一縷、戻ってきてよ。一縷の顔を見られないと、寂しくてしょうがないよ」
「おにいちゃん、一緒に生活しよう」
一縷は殺されると思ったのか、顔が一瞬の間に真っ青になった。恐怖でおびえている男の背中に、そっと体を寄せる。
おとうさんの威圧感はすさまじく、知らず知らずのうちに身震いしていた。
「殺そうとしたくせに、戻ってこいだと。ふざけるのもたいがいにしやがれ。どんなことがあっても、家族だけはかばってやるものだろうが。おまえたちはそれすらもしなかっただろうが。娘から音声を入手して、痴漢は冤罪であることは確定している。君たちは最初から犯罪者と決めつけて、命を奪おうとした。関係修復は不可能だと思ってくれたまえ」
おとうさんは扉を閉めたあと、玄関のチャイムが数回押される。ここまでの状況になっても、息子をまだ取り戻せると信じているらしい。
「警察を呼ぶぞ」
と、諦めの悪い二人におとうさんは一喝する。
おとうさんはスマホで、あるところに電話をかけていた。
「山小鳥遊君、明日の朝一番に大事な話がある。出社の一時間前に会社に来るように。服装は私服でいい」
私服でいい=仕事をしなくてもいい。おとうさんは今回の件で、完全に堪忍袋の緒が切れている。
おとうさんは電話を切ったあと、壁に張り付いている二人に最終宣告をする。
「スリーカウントを数える前に、目の前から消え失せろ。さもなくば・・・・・・」
一縷の母、妹は観念したのか、駆け足で我が家から遠ざかっていく。平和を取り戻したことに、ほっと一息ついた。
「山小鳥遊君、優愛のことをお願いします」
「はい・・・・・・」
結婚したいほど大好きな人の、服の裾を引っ張った。
「一縷、相手をしてほしいんだけど。独りぼっちにされちゃうと、安眠できなくなっちゃうよ」
一人で寝たとき、寂しさでなかなか眠れなかった。安眠するにあたって、一縷は必須となる。
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元カノに痴漢冤罪のうわさを流され孤立したとき、学校一の美少女に救われました のんびり @a0dogy69
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