第39話 優愛のおとうさんから話

 布団で寝込んでいると、優愛のおとうさんに話があるといわれた。


「山小鳥遊君、体調は芳しくないだろう。ラフな体勢でいいぞ」


 学校に復帰したばかりということもあって、体調は芳しくなかった。優愛のおとうさんは、そのことをしっかりと見抜いていた。


「おとうさま、どのようなご用件でしょうか?」


 優愛のおとうさんは背筋を伸ばす。


「君はれっきとした家族の一員だ。そんなにかしこまらなくてもいい・・・・・・。もっとラフに接しろ・・・・・・」


「そ、そうしたいのですが・・・・・・」


「まあいい。キミにすぐに聞きたいことが一つあるんだ。わが社に山小鳥遊という、50くらいの男が在籍している。この顔に見覚えはあるかい?」


 写真に映っていたのは、まぎれもない父の姿であった。優愛のおとうさんと同じ会社に勤めているのは、運命のめぐりあわせかなと思った。


「僕を殺そうとした、おとうさんです・・・・・・」


 優愛のおとうさんは、二、三度頷いた。


「やっぱりそうか。そっくりなところがあったから、家族説を疑っていたんだ」


 優愛は眉間に皺を寄せた。


「山小鳥遊君の父は、山小鳥遊君のことを知らないと答えた。山小鳥遊君は実の父であることを証言した。どちらかの証言は確実に矛盾していることになる」


「はい、その通りです」


「山小鳥遊君の父に嘘をつく理由はあっても、山小鳥遊君は正直に答えられる状況だ。どちらの言い分が正しいのかは、火を見るよりも明らかといえよう」


 優愛のおとうさんは腕組みする。


「家族のやったことは、れっきとした殺人未遂だ。そのうえ、事実を隠蔽しようとした。そのような人物を会社に置いておくのは不可能だ。厳しい処分を下すことになるが、それでもかまわないか」


 息子を殺害しようとしたのに、嘘で言い逃れしようとする父。情状酌量の余地は一ミリも残されていなかった。

 

「はい。社会から追放してやりたいです」


 優愛のおとうさんは小刻みにうなずいた。


「よし、わかった。息子を殺そうとした男を、すぐに会社から追い出す。電話で社長と話をするから、優愛の部屋に行ってくれ。重要な話だから、誰も近づかせないように・・・・・・」


 深夜遅くに社長と話。父に対する処遇を決めるのは、すぐに察しがついた。


「わかりました・・・・・・」


 二人のいるところに、優愛がやってきた。


「一縷、相手してほしいんだけど・・・・・・」


「山小鳥遊君は体調がよくないんだ。ゆっくりとさせてあげなさい」


「一縷といられないと、つまらないよ・・・・・・」


「優愛、度を過ぎたわがままをいわないようにしなさい・・・・・・」


「おとうさんのケチンボ、イジワル」


 痴漢冤罪に巻き込まれるまで、妹と同じようにしていた。一度の決定的な出来事によって、二度と戻らぬものとなってしまった。


「優愛、背中マッサージ・・・・・・」


「一縷、オーダーは確かに受け取ったよ。キャンセルは10000%認めないからね」


 優愛は小学生さながらのパワフルさで、一縷の左手を引っ張ってくる。心の準備をしていなかったこともあり、ちょっとだけバランスを崩した。 優愛の父親はその様子を見て、頬は少しだけ緩んでいた。 


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