第41話 風前の灯(一縷の父親編)
妻、妹はのんきにスマホをいじっている。我が家が危機に瀕していることは、微塵も理解していない。
「知恵、しょうね、大変なことになりそうだ」
「あなた、どうしたの?」
「一縷を家に招き入れた家族の父は、会社の部長をしている。部長のおとうさんは、会社の社長なんだ」
超がつくほど鈍感な妻は、ここまで話しても察しなかった。
「それがどうしたの・・・・・・?」
状況を理解できていない妻に、事の重大性をわかるように説明した。
「おまえたちの暴言の証拠を、あちらに抑えられている。これからのなりゆきによっては、とんでもないことになりそうだ。一縷を虐待したことが発覚した場合、懲戒解雇にするといっていた」
針を刺しても痛みを感じない妻も、懲戒解雇には敏感に反応した。
「か、かいこ・・・・・・」
「事態は緊急を要するから、一縷を急いで連れ戻せ。さもなくば、破滅の道を歩むことになる」
「スマホを取り上げたから、連絡手段はなくなってしまっているんですけど・・・・・・」
スマホは没収したあと、すぐに解約の手続きを取った。痴漢犯罪者のために、料金を払うのは愚の骨頂だ。
「部長の家に直接行けばいいだろ。部長に案内されたことがあるから、家はどこにあるのかわかっている。一縷は昔から、だまされやすい性格をしている。ゴマをすっておけば、簡単に戻ってくるだろ」
部長の家まで片道で1時間ほど。これから行くことは十分に可能だ。
「あんたが行けばいいでしょう」
「仕事で疲れているんだ。おまえたちに任せる」
部長に息子の写真を見せられたとき、保身のために嘘をついている。自宅を訪ねれば、事態はさらに悪化しかねない。
「一縷に俺の顔を確認されたら、完全にアウトだ。そうなる前に、奴を連れ戻してくるんだ」
部長は連日の残業で疲れている。土、日になるまで、顔を確認するのを保留していることにかけたい。
「わかったわよ・・・・・・」
一時的に預かったとはいえ、一縷と部長は赤の他人。こちらで育てると伝えれば、簡単に手放すはずだ。血のつながりを重視する風潮は、日本では非常に根強い。
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