第21話 服を面倒くさそうに着用する優愛

 目を開けると、枕とは異なる感触が頭にあった。


「一縷、よく眠れた?」


 目を大きく開けると、優愛の膝の上に自らの頭はのせられていた。


「優愛・・・・・・」


「一縷は睡眠をとると、手がいろいろな箇所に動くんだね」


 無意識でやっているため、それについてはわからなかった。


 周囲はすでに暗くなっている。タオル一枚で過ごすと風邪をひきかねない。

「優愛、寒くないの?」


 優愛は小さな咳をする。


「ちょっとだけ寒いかな・・・・・・」


 一時間前と比較して、気温は二度ほど下がっている。タオル一枚の少女にとって、大きな差であると思われる。


「調子を崩すと大変だから、服を着るようにしよう」


 優愛は大きなあくびをする。


「自宅で服を着るのは面倒なんだよね。ブラジャーは圧迫感があるし、パンツも履き心地がよくないんだ」


 優愛は何かひらめいたのか、手をポンとたたいた。


「一縷、タオルをもう二枚ほど巻いてもらえる。そうすれば、体はぽかぽかになるはずだよ」 


 タオルの枚数を増やして、体の温かさを確保する。タオル生活をしている女性ならではの発想といえる。服を着ている生活を送る、人間にはまず思いつかない思考だ。


「優愛、自分でやったほうが・・・・・・」


「一縷にやってほしい気分なの・・・・・・」


 こうすると決めたら、なかなかひかないタイプなのか。学校で話をしなかった女性の、裏の一面が垣間見えた。


 三枚目のタオルを巻き終えると、大きなため息をついた。


「やっと終わった・・・・・・」


 優愛はタオルの感触を確かめる。


「一縷、バストのところが緩いんだけど。ムニュムニュとやってくれると嬉しいな・・・・・・」


「優愛、自分で調整・・・・・・」


 優愛は冷たい笑顔をこちらに向けてくる。

 

「い・・・ち・・・・る・・・・・・」


「わかりました。すぐにやらせていただきます」


 タオルを縛っていると、柔らかい感触が伝わってくる。


「目がすっごくいやらしいんですけど。メスというのは、Hなことしか考えないんだね」


「ご、ごめん・・・・・・」


 優愛は口に手を当てて、くすくすと笑っていた。


「一縷、真面目すぎる。本能の赴くままに、好きなようにすればいいんだよ」


 優愛は口笛を吹き始める。いつにもなく、上機嫌なのが伝わってくる。


「タオル三枚になると、温かさが違うね」


 タオルで過ごした経験がなく、どれくらいの差なのかはわからなかった。


 優愛は時計を確認する。


「ご飯の時間だから、服を着ることにするね。家族には、絶対に見られたくないもの」


 体に巻いてあるタオルを、豪快に地面に脱ぎ捨てる。裸体に対して、顔は真っ赤になった。


「一縷、そろそろ免疫つけろ。そんな反応されたら、ストレスたまるよ」


 学校一の美少女の裸体を見て、平常心を保つのはハードルが高い。


 優愛はかったるそうに、服を着用していく。こだわりはないのか、親父の着るような服だった。


「一縷、夕食にいきましょう」


 タオルを巻いたことで、「死ね」といわれたときとは異なる、精神的な疲れを感じた。 


「一縷、どうしたの・・・・・・?」


「いろいろと・・・・・・」


「夕食をいっぱいたべて、元気を出そう・・・・・・」


「そ、そうだな・・・・・・」


 晩飯を食べれば、元気を取り戻せるはず。危機を脱した男は、ポジティブに考えることにした。

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