第37話 家族からの話(葛音編)

 学校から一方的に、自宅謹慎を言い渡された。子供の意見を無視するのは、人権侵害にあたる。学校を訴えて、大量の慰謝料をぶんどってやる。


 スマホを苛立ったようにいじっていると、おかあさんが部屋に入ってきた。


「学校から、いろいろと連絡があったの。そのことについて、あなたに確認したいことがあるんだけど・・・・・・」


 いつもは穏やかにしているおかあさんは、本日に限っては余裕のなさを感じられた。


「葛音ちゃん、学校内で痴漢をでっちあげたのは本当なのかしら?」


「そ、そんなことはしてないよ」


 否定するも、声は明らかに動揺していた。


 母はある動画を部屋で流す。彼氏から聞かされていたものと、まったく同じセリフだった。


「校長からいわれて、ある動画を流してみたの。痴漢冤罪をぶちまけたという女の声は、あんたそっくりなんだけど・・・・・・」


「こんなに似ている声の女性がいるなんて、奇跡中の奇跡だね・・・・・・」


 論点をずらそうとするも、おかあさんにはきかなかった。


「本当のことをいいなさい・・・・・・」


 はぐらかしたとしても、いずれはウソがばれる。そのように考えて、真実を伝えることにした。


「痴漢をでっちあげしました」


 おかあさんは頭を抱える。


「どうして、そんなことをしたの・・・・・・」


「元カレが邪魔になったから、合法的に消そうと思って・・・・・・」


「学校からは無期停学を伝えられたわ。ニュアンスからして、自主退学してほしいという感じだったわ」

 

 痴漢冤罪を流しただけで、自主退学に追い込まれるのは理不尽すぎる。


 おかあさんは息を吐いた。 


「あんたのやったことで、おとうさんも大変なことになっているの。運が良くて地方にお引越し、運が悪かったら職を失うことになりそうなの」


「どうして、そんなことに・・・・・・」


 母はため息をついた。


「あんたの短絡的な行動によるものだよ。あんたのせいで、家族は破滅の道を歩むことになったの。どのようにして、責任を取ってくれるのかしら」


「責任・・・・・・」


 おかあさんは大きな息を吐き出す。


「私たちは面倒を見切れないから、施設に預けようと思っているの。生活はどうにかなるから、あとは自分でやってね」


「施設で生活するなんて・・・・・・」


 施設は自由を大きな制約を受ける。のびのびとした環境で過ごしたいものにとって、地獄同然の環境といえる。


「あなたを切り離すことは、私たちにとっての必須条件になるわ。さもなくば、家族全員で地獄に行くことになる」


 痴漢をちょっとでっちあげただけで、すべてのものを失うなんて。こうなるとわかっていたなら、徹底的に悪者にしておくべきだった。


*次からは一縷の家族の話が続きます。

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