第36話 学校一の嫌われ者(葛音編)

 痴漢冤罪を再びでっちあげるも、反応は芳しいものではなかった。


「一度目はうまくいくかもしれないけど、二度目はさすがに無理があるわよね」


「痴漢をでっちあげて、自分の思い通りにしようとしているのね」


「絶対にかかわってはいけない女だね。声をかけてきたら、すぐに逃げないといけないね・・・・・・」


 葛音を視界にとらえると、女たちは一目散に逃げ去っていく。


「痴漢をでっちあげた女だ。すぐに逃げろ・・・・・・」


「痴漢犯罪者にされたら、元カレと同じ目にあわされるぞ」


「学校一の危険人物だ・・・・・・」


 女たちだけでなく、男たちも一目散に逃げていく。学校内において、完全に孤立無援に追い込まれた。


 女友達に声をかけようとすると、全員が一目散に逃げていく。彼女たちは明確な意思を持って、こちらから逃げている。


「どうして、私から逃げるのよ」


 こちらからの問いかけに、クラスメイトの一人が反応する。


「犯罪をでっちあげる女なんて、誰も近づきたいと思わないよ。そんなこともわからないのかしら・・・・・・」


「そうよ。あんたは学校一の危険人物なのよ。完全に縁を切ることに決めたわ」


 二人の女に、必死の釈明をする。


「あれは、軽いジョークで・・・・・・」


 祐大と交際するために、やむを得なかったこと。幸せになるためには、誰かの犠牲を必要とする。


「ジョークだと思っているなら、余計にたちが悪いわね。痴漢をでっちあげるなんて、一ミリも笑えないんですけど・・・・・・」


「そうだよ。自分さえよければいい女なんて、絶対に相手するわけないでしょう」


 最近まで親しくしていた友達は、容赦のない言葉を浴びせてきた。


「学校生活の邪魔になるから、とっとと消えればいいの・・・・・・」


「そうだよ。あんたが消えることは、クラスに必要不可欠なの」


「退学届を提出しなさい」


「いっそ、死んでくれてもいいけど・・・・・・」


 一縷に向けられていた敵意は、完全にこちらに向けられる。


「あなたのせいで、みんなの人生は完全崩壊。あなたが消えても、二度と戻ることはないわ」


 口論になっている女たちの前を、一縷と優愛が通りかかる。痴漢冤罪の話をしてから、急接近した二人である。


「一縷、昼食に行きましょう」


「優愛、今日の弁当も楽しみだよ」


「一縷、弁当を食べたあとは膝枕をしてあげるね」


「優愛、メンタルポイントが・・・・・・」


「まだ、そんなことをいっているの。いい加減になれなさい」


 二人の会話に気を取られていたため、元トモが逃げていることに気づかなかった。


 教室に戻ろうとすると、40くらいの体育教師の声が聞こえた。


「葛音、話がある。教員室まで来てくれ・・・・・・」


「私は忙しいので・・・・・・」


「痴漢冤罪を流したことによる処分を、職員会議で決定した。それについて話をする必要がある」


「私が処分されるんですか。そんなことは絶対にありえないんですけど・・・・・・」


 ちょっとしたジョークを学校内に流しただけ。罪になるようなことは何もしていない。大人たちの都合に振り回されるなんて、どんなことがあっても嫌だ。

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