第5話 美少女の強い意志

 二人は教室に戻ってきた。


「優愛さん、痴漢犯罪者から離れたほうがいい。さもなくば、優愛さんも不利益を被ることになる」


 優愛はカチンときたのか、とげを含んだ言葉を返す。


「あんたたちにそんなことをいわれる筋合いはないんだけど・・・・・・」


 彼女が発言したことに、クラスの全員が驚いていた。それもそのはず、教室で誰かと口を聞くのは初のことである。


 優愛さんの目は、凍り付いている。弁当を恵んでくれたときの優しさは、完全に影を潜めている。


「犯罪者のそばにいたら、同類とみなされる。優愛さんにはそうなってほしくないから・・・・・・」

 

 もっともらしいアドバイスに、優愛は唇を尖らせた。


「私は私の信念に基づいて行動している。個人のプライベートにいちいち介入しないでくれる」


 クラスメイトを突き放すような態度は、元カノよりも凄みを伴っている。優愛を敵に回したとき、学校で生活できる場所は残されているのか。


「一縷君は絶対に痴漢していない。いずれ、明らかになるときが来るから」


 ありがたい言葉に対して、大粒の涙が流れた。


「痴漢が本当だったときは・・・・・・」


「そのときはそのときだよ。痴漢が確定していない状況で、犯罪者呼ばわりするのはどうかと思うけど・・・・・・」


 たった一人の頼もしい味方。優愛をずっと、ずっと大切にしていけるといいな。


「一縷君、全身にオイルを塗ってほしいんだけど・・・・・・」


 唐突に発せられた言葉に、クラスの雰囲気はがらりと変わる。


「優愛さん、オイルはどこにもないけど・・・・・・」


 優愛はカバンの中から、オイルらしきものを取り出す。


「オイルならここにあるよ・・・・・・」


 美女のオイル塗りに参加したいのか、男たちは相次いで立候補する。男子高校生らしい行動に、心の中で大きなため息をつく。


「僕にオイル塗りをさせてください」


「僕のほうが適任です」


「僕こそがふさわしい・・・・・・」


 優愛はすさまじい形相で、変態男たちを一蹴する。


「一縷君以外は体に触れた時点で、100パーセントで痴漢確定だよ。冷たい、暗い牢獄の中で生活すればいいよ」


 警告は効果てきめんだったのか、男たちは意気消沈していた。


「一縷君、オイル・・・・・・」


「ここでするのはどうかと思うけど・・・・・・」


 クラスメイトの見ている前で、オイル塗りをするのは不可能である。


「体は難しいなら、手に塗ってくれていいよ。温かいぬくもりを感じたら、ハッピー、ハッピーだよ」


「それくらいなら・・・・・・」


 オイルをちょっと手に取ると、優愛の手にオイルを塗る。痴漢で叩いているときよりも大きな、殺気を感じるのに時間はかからなかった。


「痴漢したくせに・・・・・・」


「許さないぞ・・・・・・」


「俺たちのアイドル・・・・・・」


 優愛は男たちに、殺気立った視線を向ける。男たちは蛇に睨まれた蛙さながらに、なにもいわなくなった。

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