第4話 学校一の美少女に声をかけられる

 ろくに食べていないこともあって、おなかはペコペコだった。


 購買部でパンを買いたいけど、所持金は0円。銭なしでは、何も購入することはできない。


「一縷君、一縷君」


 声をかけてきたのは、学校一の美少女である心優愛。彼女は高校に入学してから、クラスメイトと距離を置き続けている。強烈すぎるバリアを張って、人を遮断しているみたいだ。


「心さん、どうしたの?」


「お話をしたいから、どこかに行こうよ」


 優愛は強引に腕をつかんできた。見た目は華奢だけど、相当なパワーを持っている。引きずられるようにして、ある場所に連れていかれた。

 

*学校の校庭の裏側


「ここなら落ち着けそうだね」


 引きずられていた時は気づかなかったけど、右腕は一縷の胸に食い込んでいた。


 腕を離そうとすると、さらなる力を加えられる。


「このままでいいよ」


「優愛さん・・・・・・」


「一縷君が嫌だったら、無理はいわないけど・・・・・・」 

 

「いやとかではないけど・・・・・・・」


 ガンガンの太陽の光が、目に直接あたった。あまりにまぶしすぎて、視線を大いにそらした。


「まぶしいね・・・・・・」


「ああ、そうだな・・・・・・」


 優愛はサングラスをかける。一つを装着しただけで、別人さながらに見えた。 


「優愛さんは、痴漢の話を信じていないの?」


 優愛は首を縦に振った。


「本当に痴漢をしたなら、警察に通報するはずでしょう。それをしていない時点で、冤罪だと察しはつくよ」


 一縷のおなかはぎゅるるとなった。米粒、少々の水では、おなかを満たすのは難しい。


「ご飯を満足に食べられていないみたいだね。私の弁当でよければ、全部食べていいよ。コンビニで買ったパンもあるから、そっちも食べてね」


 朝食として与えられたのは、3かけらの食パンの耳だけ。昨日の夕食と合わせて、完全に不足している。


 痴漢冤罪のうわさを流されてから、ご飯を満足に食べさせてもらえなくなった。痴漢犯罪者=すぐに死ぬべき存在とみなされている。


「優愛さんがおなかすいちゃうよ」


「昼食を抜くくらい、どうってことないよ。昼に食べられなかった分、夜に食べればいいだけだし」


 夕食を与えられるもの、夕食を抜きにされているもの、二人の間には明確な境界線があった。


 昨日から食べていないこともあって、おなかは強烈にぎゅるるとなった。


「弁当、パンを食べて・・・・・・」


「優愛さん、ありがとう・・・・・・」


 申し訳ないと思いながらも、弁当、パンを食べ進めていく。生きるためには、やむを得ないことといえる。


「一縷君、おなかは満たせた?」


「ちょっとは・・・・・・」


 食事を終えると、優愛に腕を引っ張られた。


「優愛さん、距離が近すぎるよ。冤罪事件をさらにでっちあげるつもりなの」


「そんなことはしないよ・・・・・・」


 強烈な異臭を感じたらしく、優愛は鼻をつまんだ。


「ご飯を食べさせてもらえないだけでなく、お風呂にも入れてもらえていないみたいだね。家における扱いは、相当ひどいみたいだね」


「うん。痴漢冤罪以降、人間とみなされなくなった」


 昨日の味方は今日の敵、戦国時代の言葉がぴたりとあてはまる。


 優愛は顎に手を当てる。

 

「家族に事情を説明して、私の家に住めるように相談してみる。反対されると思うけど、強引に押し切ってくるよ」


「優愛さんがそこまでする必要はないから・・・・・・」


 優愛は赤の他人。同級生を助ける義務はない。


「痴漢冤罪で苦しんでいる男をほっとけないの。私のわがままだと思って、素直に聞いてちょうだい」


「・・・・・・」


「家族、クラスメイトが敵になっても、私は味方だからね」


「優愛さん・・・・・・」


 優愛を信じていいのかはわからないけど、他は全員が敵の状態。彼女を信じるしか、前に進む方法はなくなっていた。


  

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