第4話 ~side 私~

 最近暑くなってきたし。

 今日はとくに暑いし。

 暫くあの喫茶店にも行ってないし。


 なんて自分に言い訳をたくさんして、私は仕事帰りにいつものあの喫茶店に寄った。

 週末でもあったし、一週間頑張った自分へのご褒美でもあったし。

 ……なんだか、あなたを想って切なさに浸りたい気分だったから。


 チリリン


 ドアを開けると、可愛らしい音が響く。


「いらっしゃいま……」


 いつものように迎えてくれたマスターが、なぜだか一瞬固まったような気がした。

 それをフォローするようにして、ママさんがにこやかに笑いながら、いつもの奥まったカウンター席へと案内してくれる。


「ねぇ、ママさん。あの人、最近来てる?」


 頼むのはレモネードって決めているけれど、なんとなくメニューを見ながらママさんに聞いた。

 いつものように。

 当然、いつもの「この間いらっしゃいましたよ」の返事が返ってくると思いきや、一拍間を置いたあとで、ママさんが窓際のテーブル席の方に目をやりながら言った。


「今、いらしてますよ」


 胸が大きくドキンと打った。


 あなたが、いる。

 今、この喫茶店に。


 そう思っただけで、胸がざわつく。


「レモネード、飲んでる?」


 そう聞くと、ママさんは小さく首を振って言った。


「まだ何も」


 これはもしかしたら、チャンスなのかな。

 神様が私にくれた、ラストチャンス。


 少し迷ったけど、私は心を決めた。


「すいません、レモネードひとつ。あの人に」



 マスターが作ったレモネードを、ママさんがあなたの所へと運ぶ。

 そのママさんの少しあとから、私もついて行った。


「え? まだ注文していませんが」


 レモネードをテーブルの上に置くママさんに、あなたは怪訝な顔を向ける。

 影に隠れてコッソリ見ながら、私は久し振りに見たあなたの姿に、ドキドキ……すると思ったけど、なんだか安心してしまったの。

 よかった、元気そうで、って。


「あちらのお客様からです」


 そう言って、ママさんが私の方を振り返る。私はゆっくりとあなたの方へと近づいた。

 あなたの驚く顔を見ながら。


「ご一緒しても?」


 私の言葉に、あなたはコクリと頷いた。

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