第21話 五大保安官・赤星ジェラルディン
「……また五大保安官か。今新人の育成中だから来ないで欲しかったのに」
「敵がそんな要望を聞くと思いまして?悪いですけど今のうちに殺して一つ残らず芽を摘んで差し上げますわ」
彼女はナイフを取り出してそれを投げる。投げた先にポータルが出現し、銀髪に金眼のメンバーの一人の後ろを通過する。背中にナイフが刺さった新人の一人は悶え苦しみ、その場に倒れた。
「言っておきますけど、そのナイフには毒が入っていますわよ?その毒が体内に入ると、3分間苦しんだのちに運や当たりどころが悪いと死にますわ。気をつけてくださいまし」
誰かこの中に回復能力者はいないのか?僕は必死に周りに声をかける。
「皆さんの中に回復系の異能者はいないんですか?」
どういうわけか、しばらくジェラルディンはワープゲートを出してこない。もしかしたら何か制約があるのか?と僕は思った。
そう考えているうちに、倒れている新人の一人に別の新人の女の子がやってきた。彼女は若草色の髪にメガネをかけていて、小柄だ。
「【
そう言いながら手袋越しに傷口に手を当てる。すると、彼の傷口から光の蝶のような何かが出現したと同時に、彼が立ち上がった。傷跡がないか背中をさすっている。
「おおっ!傷跡一つなく治ってる!ありがとうな……。それと、お前、忘れたくないから言ってくれ。名前なんて言うんだ?俺は
「わたしは
僕はじっとその様子を見る。しかし、ジェラルディンは走ってこちらに近寄ってくるだけで、ワープゲートを再び出してはこない。僕は何か裏があると思って賭けに出た。
「ジェラルディン……君は何か能力に制約があるのか?じゃなかったらわざわざ走ってこないはずだよね?」
ジェラルディンはそう言われると立ち止まり、少し笑みを浮かべる。
「まさかそこに気づく人が現れるとは……教えてあげましょう。私の【
『自己犠牲の精神が自分には宿っている』と言っているかのように自信満々に語るジェラルディンに、僕は頭を固いもので殴られたかのような衝撃を受けた。
「そんな能力の代償……最悪じゃないか……まるで悪魔に魂を売ったみたいだ……」
「……?どういうことですの?」
首を傾げるジェラルディン。確かに僕の言ったことが伝わりづらいのも無理はなかった。
「僕たちが殺したいのは
「何が言いたいのですの?私、長々と話す人は嫌いなのですわ」
「要約すると、君たちには死んでほしくない。だから寿命を使う力をおさえて欲しいんだ」
「何を言っていますの?そんな付け焼き刃の言い訳をしても効きませんわ。だいたい、何十人もの罪のない人の命を奪った凶悪犯罪者が私たちの死を望まないというのもおかしな話。それに、仮にあなたたちダーウィンズオーダーがそのような組織だったとして、悪が悪の中で捏ねる自分の中の理屈より私の組織に殉ずる精神の方が重要に決まっていますわ。少なくとも私自身の中では」
「じゃあなんでこの戦いでは使わなかった」
「3日後に恋人の誕生日が控えているからですわ」
「恋人……」
「やっぱり超常保安官も人間なんだな」
「ということは、この人も恋人の誕生日までは生きようとしているのか?」
周りがざわつく。新人ということもあってか、敵の自分語りに耳を傾けようとしているようだ。
「待て。まさかとは思うが、その恋人が無能者じゃないだろうね?」
「……なぜ分かったのですの?」
「そこまででもなければ、超常保安官は確固たる意志を持たないからだよ。……まあ、弱らせるとしようか。恋人を殺したい気持ちはあるし。卯月さん、ジェラルディンのナイフは持ってる?」
「えぇ?はい、持ってますけど……」
卯月さんにナイフを差し出されると、僕はそれに大量の、今日出せる限りの水を出して洗い流す。
「……これでナイフの毒は使えなくなったね。どうする?ジェラルディン」
「そうですか……これは戦力が大きく削がれましたわね。まあいいですわ」
ジェラルディンはそう言ってナイフを回収する。そして、ワープゲートを出現させて次々とメンバーの首筋を後ろから切りつけていく。
「こうやって急所を刺せば、毒がなくとも関係ありませんわ」
首筋を切りつけられたメンバーは次々と倒れていく。残りのメンバーが10人ほどになった時、ジェラルディンは諦めたような顔をしてこういった。
「もう寿命が残りわずかになりましたわ。仕方がないのであなたたちを解放してあげますわ」
「なんだと?」
「……私は嘘はつきません。それに、身の安全を大事にするように上から言われていますわ」
ジェラルディンはそう言って指を鳴らす。すると、空間が元に戻った。
「さあ、帰りましょう」
そう言ってジェラルディンはどこかに帰っていった。
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