第20話 渡る世間は
ダーウィンズオーダーの援軍が来ると、僕は遠巻きにその様子を眺める。
無論、危なくなったら加勢するつもりだけど、僕の能力には限度がある。だから、静観するしか手段がない。
早速、新人の一人が右手から炎を出し、それで片方の超常保安官の右手を焼く。重度の熱傷を負った右腕は動かそうとするたびに痛くなるようで、とても使い物にならなくなってしまった。
「あっ!痛めつけるのはいいですけど、殺すのだけはやめてくださいね?超常保安官を殺すのはダーウィンズオーダーの理念に反しますから」
僕は大声で新人のみんなに伝えると、すぐに隠れて見つからないように、路地裏においてあったゴミ袋で山を作って空間を遮った。
そこで4分ほど待っていると、新人たちが僕に向かって無線通話をかけてきた。
「とりあえず超常保安官は始末し終わりました。次は本隊が来るまで待っていればいいんですね?」
「はい」
先に斥候を出して様子を見て、その後に適切な戦力を投入する。そんな超常保安局のやり口は新人教育で僕が話したので、新人は皆気を引き締めて待っていた。
超常保安官がちゃんと倒れているか確認するために、ゴミ袋の壁を崩して様子を見にくる。万が一起き上がった時のために近くから見にきたが、問題はなさそうだ。
片方(炎で腕を焼かれた方)の超常保安官は両目を失明し、完全に隻腕になっている。もう片方は腹部に軽い傷を負っていて、気絶しているようだが呼吸はしている。
「よし、問題なさそうですね。この人たちをできる限り遠くに運んでください。巻き込んで殺しても不注意を理由に懲戒処分を受けますから」
それを聞いて、ほとんどの人は首を縦に振った。何人か首を傾げる人もいたけど、その際に隣の人が理由を説明してくれていた。
「お前たち……何をする気だ?なぜ我々を運んでいる!?」
突然担ぎ上げられて慌て出す超常保安官の2人。気絶している方も担がれた時に目覚めてパニックになる。その際に体から放電し、その電流が走った痛みで片方の超常保安官を落としてしまった。
あまりにも仕方のない状態だったので、近くにいる人が電流を流す超常保安官に近寄り、こう声をかけた。
「……行ってください。断じて裏はありません」
「……それは本当か?お前たちはこの前保安官を一人殺したはずでは……」
「そうですよね、信じてもらえないですよね、断じて。でもこれは本当なんですよ。あれは責務を果たせなかった超常保安官の自殺です。それに、他の特別異能犯罪者の組織だったら今頃50人は超常保安官を殺してるはずなんです」
「なるほど……お前のいうことも一理あるな。確かに、他の違法な異能者組織が殺した我々の同胞の数はお前たちとは比べ物にならない。……ここは戦略的に退くとしようか」
「ええ。長生きしてください」
そう言われると、その超常保安官は自ら安全な場所に逃げていった。
やっぱり計算通りだ。超常保安官は市民の安全とか治安維持よりも、結局のところ自分の身の安全の方を重視する。
僕らと戦っても殺される確率はないに等しいのに、なぜわざわざ背中を向けて逃げたのだろう?
……まあ、ここに
「今のうちに場所を移動しよう。ここに超常保安官の追手が来るまでに安全なところに行こう」
僕たちは集団で、虫か魚の群れのように一方向に向かって逃げるように動く。念の為超常保安官が休んでいる場所とは逆方向に移動した。
しかし、走っても走ってもこの道を抜けられている気がしない。10分以上走り続けてもこの道を抜けられていない。僕はそれに不安感を抱いて立ち止まった。
「皆さん、止まってください」
僕の呼びかけによってみんなが立ち止まる。立ち止まってみんなが様子を見ると、一本の道が果てしなく続いているのが見えた。振り返ってみても同じだ。そして超常保安官の姿は見えない。
…………何が起きているんだ、これは?
「あー、ボク聞いたことあるよ、こういうの。昔のゲームって画面の端に行くと反対側の端に繋がっててそこから出てこれる仕組みになってるのが多かったんだよね。ボクのお父さんがレトロゲーム愛好家でよく遊んでたから知ってるよー」
「余計な話はやめなさい。呑気にゲームの話なんてしてる暇があったら——」
僕と同い年くらいの、背の低い二人の少年と少女が話をしているのが聞こえた。しかし、僕はその会話を聞き逃さなかった。
「ああ、そういうことか……それ、要するに空間がループしてるってことだね?ということは、これをしたのも空間にまつわる異能者か……。先ほど僕たちが逃した超常保安官の姿が見えないってことは、僕らを引き摺り込んだ?」
「その通りですわ」
その声の方を向くと、ポータルを後ろに立っている金髪で白い肌の女性の姿が見えた。
「私の能力は【
その発言とともに、ポータルがしまった。
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