第15話 微笑む悪魔

僕と一崎さんがぐっすり寝ていると、急にスマートフォンのアラームが鳴った。


「何、何!?一体、何が起きたの?」


珍しく取り乱して周りを見回している一崎さんを横目に、僕はアラームを手に取る。というか、いつもクールな一崎さんでも慌てることってあるんだなぁ……。


「もしもし、エボル。何があったんですか?」


『ああ、その声は矢橋くんか。先ほど【千里眼クレヤボンス】を持つ支部の能力者により、超常保安局がこちらにきているとの報告があった。奴の計算によるとあと1時間30分くらいでこちらにくるらしい。だから今のうちに整えておけ。ちなみにこれは他の奴らにも報告はしてある」


「わかりました」


僕はそう言ってアラームを切った。


「一崎さん。どうやらあと1時間半で超常保安局の連中が来るみたいです。さっさと着替えましょう」


「そうなの?わかった」


一崎さんはそう言うと押し入れから2人分の制服を取り出した。


「さあ、着替えなさい」


僕は一崎さんに出された制服に丁寧に着替えていく。いつもと違って真夜中だし、奴らが来るまで逆に言えば1時間半あるので、丁寧かつゆっくりと着替えることができた。


「これでなんとか着替え終わった。本拠地前に行きましょう」


僕は一崎さんの発言に頷き、そのまま本拠地前に向かった。


本拠地前には何人も人が集合していた。その中には黎人くん、アミちゃん、洞坂さん、郷戸さんの姿もあった。


「お前ら、準備はできているな?」


「もちろんできているじゃないですか。こんなところで死ねるわけがありません」


「報告によると、向かってきている超常保安官の数は3人、でもそのうちの1人が五大保安官らしいんだ」


「五大保安官?」


僕が首を傾げながらそういうと、一崎さんが反応した。


「五大保安官は、超常保安官の中でも強くて地位の高い5人の超常保安官のこと。どいつもこいつも強い能力を持っていて、世間の人たちからも一目置かれている。当然、無能者デリケイトどもからも慕われているはず」


「そんな人たちがいるんですね。それで、その5人のうち誰が来るんですか?」


「そのうちの無効化能力者がくるらしい」


「無効化能力者、ですか……」


僕はそれを聞いて、何かが心の中に引っかかった。


しばらく会話をしていると、3人の超常保安官のスーツを着た人が現れた。うち2人が男の人で、1人が女の人だ。


渋雪しぶゆき、3人のうち2人の異能を調べて。真ん中の背が低い男の能力はわかってるから」


「わかりました」


渋雪というらしい、初めて会う構成員は2人の方を見る。


「はい。男の方は火を操る能力、女の方は空気を固める能力のようです」


僕はそれを聞いて、左側に立っている男性に水を浴びせる。


「くっ、くそっ……この状態では火が操れない……」


「困ってるみたいだな。安心しろ、俺が水の能力者をぶっ殺してやる」


「ありがとうございます、黒木さん!」


黒木というらしい真ん中の背が低い人は、地面を勢いよく蹴りながらこちらに向かってきた。


「いやあ、お前たち思ってるだろうねえ。なんでここに俺らが来たのかって。簡単な話だよ。俺の無効化能力を部下に使って、部下を無能者デリケイトにした……そしたらお前らが無能者デリケイトと間違えて俺の部下をぶっ殺してくれた!おかげでお前らが大体どこにいるのかわかっちまったんだよぉ〜。ご丁寧に本部所属のバッジなんかつけてたお前らのせいだからなぁ〜」


(……はっ)


僕はその時、全てを思い出した。


あの時のパトロールで殺した無能者デリケイトが着ていたのは、超常保安官の制服と同じ、真っ白なスーツ。


冷静に考えたら、無能者デリケイトが超常保安官になれるわけがない。僕らみたいな反社会組織を相手に、あの腰抜けどもが戦えるわけがない。


そうか……あの嫌な予感はそういうことだったのか……。


「おう。お前は全部気づいてるみたいだな。よし、お前の賢さと罪悪感に免じてお前の命だけは助けてあげてもいいぜ?」


僕はそう言われて目を鋭くし、首を横に振った。そして水を出そうとするが、なぜか水が出ない。


「あれ?水が……まさかお前……」


「そうだ。俺こそが五大保安官の1人、無効化能力である【無能の呪いナッシングカース】を持つ黒木順輔だ。俺は触れた人間から能力を奪うことができる。こうやって皮膚接触じゃないとダメなルールはあるけどな」


黒木がそうやって能力を説明していると、横から一崎さんがブーメラン型にした血の鎌で攻撃を仕掛ける。しかし、すぐに僕から手を離して攻撃を避けてしまった。


「言っておくが、俺はカンも一般人よりちょっと優れてるからな?」


「抜け目なしか、こいつ……」


「それじゃ、さよなら〜」


黒木はそう言って銃を渋雪の方に向けて撃つ。防弾の服で守られていた胴体には当たらず、綺麗に眉間を狙ったヘッドショットが決まり、渋雪はそのまま死んでしまった。


「これで1人目っと。さあ、次はお前らがこうなる番だぞ。俺は一度狙った獲物は絶対にヘッドショットで沈めることができるんだよ。なあ、一度だけ聞いておく。覚悟はできているのか?」


ゴクリ……。僕はそう言われたので唾を飲んだ。僕はそれに頷くことしかできなかった。


「まあ、できてなくてもぶっ殺すけどな」


そうして僕たちと黒木の戦いが始まった。

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