第9話 超常保安官
緑色の車が止まると、そこから白いスーツに身を包んだ男の人と女の人が1人ずつ出てきた。男性の方は30代、女性の方は20代くらいの年齢だった。名札にはそれぞれ、「
その二人はすでに空いていたドアから現れて、こちらを見るなりこう言った。
「おおっと、これは【
「そうですね、我宮先輩。それに、未登録と思われる捜査名称がわからない構成員も3人います」
「それじゃあ、早速戦いを始めるとしようか」
会話をしながら二人はこちらに向かってくる。
「あなたたちが超常保安官なんですか?」
「その通り。私たちはお前たちを処理しに来た。私と床井君の能力で葬ってあげよう」
そういうと、我宮は懐から袋を取り出し、そこから灰をばら撒いた。灰はこちらに向かい、視界を妨害する。僕は思わず目を塞いでしまう。
「私の能力は【
「また敵に説明していますね、我宮先輩……そんなことをしたらいつか敵に塩を送ってしまいますよ?」
「いいかね、床井君。敵を前にしても礼節は守るのが官軍というものさ。それにこいつらだって私たちをわざと生かして敵に塩を送っているじゃないか」
「まあ、それも一理あります。それじゃあ、私も」
僕は周囲を確認するために、水を使って灰を湿らせて落とす。そこに見えたのは、窓ガラスに触れて変形させ、ドリル状の武器に変形させている様子だった。
水に濡れて固まった灰が地面に落ちているのを見て驚く我宮。一崎さんは彼に水に攻撃を仕掛けようとしたが、その時に大きく転んでしまった。
「ど……どうして?」
一崎さんが取り乱している時に、僕はあることに気づいた。僕の足元に何かがまとわりついていた。下を見ると、全員の足元に僕が湿らせた灰がこびりついていた。
「どうだい?私の能力をお前たちが逆手に取ったように、私もそちらの力を逆手に取ったのさ。湿った粉はそうやって人を動きにくくする」
僕が説明を聞いている間に、灰を振り払うように飛び跳ねながら、ガラスのドリルを持った床野が現れ、右脚で一崎さんを踏みつけた。
「最後に言い残すことはありませんか?」
そう言いながらドリルを少しあげ、次にそれを突き刺す。すると、傷口から触手状に変形した血液が伸び出し、ガラスのドリルを締め上げて粉砕した。
「私は敵につけられた傷でも血を出すことができる。それに……」
一崎さんは急いで血の触手を引っ込めると、急速に血小板でかさぶたを作って傷を修復した。
「ふぅ、間に合ってよかった。私は接近戦だとこういう利点がある。血が本体から分離していなければ、こうやって血を引っ込めて、血小板を活性化させて回収することができる」
「なぜ、それを練習の時にしなかったんですか?」
「特に深い理由はない。手加減しただけ」
僕が疑問に思ったので首を傾げて質問すると、一崎さんは立ち上がりながらそういった。
次は腕をブレード状に変形させた黎人くんが攻撃を開始する。すると、床野の右腕が切断され、あまりの痛みに左腕で傷口を押さえ込んだ。
「洞坂!いますぐ奴の目を見ろ!」
郷戸さんに言われた通り、洞坂さんは床を覆う灰に負けずに体全体を動かして床野の動きを止めた。
「うっ……!」
アミちゃんはその隙にテレポートで駆け寄り、床野を建物の外に押し出し、最後にドアを閉めた。そして、元いた位置に戻る。
「さて……あえて様子を伺っていたが、そろそろ2袋目を出すことにしよう……」
我宮はそういうと懐から2つ目の袋を取り出し、それを使って再び灰を撒き散らした。
僕は同じように水で固めて対処しようとするが、もう今日は出せる水を使い切ってしまっていた。
「矢橋!いますぐさっきと同じことをやってくれ……ゴヴォオッゴヴォオッ!」
「で、できません!もう今日は水を使い切ってしまったみたいです!」
「チッ……」
僕が水を出せずに戸惑っていると、そこに我宮の影が見える。おそらく大体の位置を把握して近づいてきたのだろう。
「最後はこれでとどめを刺そうか」
我宮はそういうと、僕の前に灰を飛ばしてくる。僕はそれに伴って、穴を固くで塞ぐようなイメージで口をつぐみ、鼻でしていた息を止め、目を閉じた。
「やっとこれで見えるようになった。もう目を開けていいわ、洋」
僕がそう言われて目を開けると、灰色の霧は薄くなっていて、床には片手片足を失った我宮がいた。
「うぅっ、痛みで集中が途切れて、灰がその隙に窓枠から逃げてしまった……どうか、最後は一思いに殺してくれ……」
「いや、殺さねえ。私たちダーウィンズオーダーが殺すのは
「そうか……」
「でも、ひとつ約束する。援軍が来る前に、ここの奴らは皆殺しにする」
「……ふざけるな」
そう言い残して我宮は目を閉じた。
「……安心して。脈はあるから生きてる。だからいますぐに
そこから、恐怖の虐殺が始まろうとしていた。
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