第8話 初任務と倫理

7月13日、午前5時。


今日はなんとか一崎さんに起こされずに自分で起きることができた。


「おはようございます、一崎さん」


「おはよう、洋。今日は任務があるから急いで本拠地に行こう」


「わかりました」


いつも通り早めに制服に着替えて、僕と一崎さんは本拠地へ向かう。だんだん手が慣れてきたのか、早く正確に着替えることができた。


2週間もあんなに遠いところを行き来したおかげで、本拠地には何の苦もなく行くことができた。


「あ、一崎さんと矢橋くん。おはよう」


「おはようございます、お二人とも……」


本拠地にはすでに洞坂さんとアミちゃんがきていた。


「「おはようございます」」


しばらくすると、遅れて黎人くんと郷戸さんがやってきた。


「おはよう、一崎、矢橋、洞坂、陸原」


「おはようございまーす」


「ちょっと、2人とも1分遅刻してる」


「あー、すまねえな。こいつを起こしてたもので」


「だって俺、ここに来る前は夜9時に寝て朝7時起きだったんだからさー」


黎人くんは顔を顰めながらそういった。


「全員揃ったようだな。それでは初任務の説明をしよう」


エボルがそう言いながら部屋の奥のカーテンから現れた。


「みんな、集まってくれてありがとう。覚えているとは思うが、今日はお前たちの初任務だ。どんな任務かはこの画面を見てもらうといい」


エボルはそういうとディスプレイを上から出現させた。そこにはどこかの地図が映る。


「今日行ってもらうのは、ここから3.1km離れたところにある山座須市の施設だ。この施設は無能者デリケイトどもが数年前から占拠している。よって今日はここを潰しに行ってもらう」


「えーっと……潰しに行くんですか?」


「ああ。そうだ。あいつらは社会に何の貢献もせずにただ踏ん反り返るだけの穀粒し、そんな奴らが群がったところで何の役にも立たない。0に何をかけようが0、それどころかマイナスが群がればそれだけマイナスになる」


「そんなの酷いですよ!彼らは何もしてないじゃないですか!」


「だが、たった1%のクズが死ぬだけで未来ある99%の人間が救われるのは事実だ。単純に計算しても1対99、それに実際はクズより能力者の方が価値があるからさらに差が大きい。逆に聞くが、君は彼女を轢き殺したあの無能者デリケイトと自分の母親が溺れていたらどっちを助けるんだ?」


「それは……母親ですけど」


「つまりそういうことだ」


エボルにそう言われて僕はしばらく口ごもりをしてしまう。


「他に質問はあるか?」


「はい。洞坂さんに聞いたんですけど、私たちを追って超常保安局が来るらしいじゃないですか。その人たちに関してはどうすればいいんですか?」


「ああ、超常保安局か。奴らは所詮取るに足らない穀潰しの命にしか目を向けないでおいて、自分は立派に社会に貢献していると思っている偽善者の集まりだが、あいつらの遺伝子は淘汰されるべきではない。だから奴らのことは殺さずにせいぜい手足を1、2本折るくらいにしておいてくれ」


「な、なるほど……」


この質問をしたアミちゃんはかなり引いている様子だった。あと、『せいぜい手足を1、2本折るくらい』ってすごい言葉だな……。


「よし。それじゃあ、早速あそこにある車に乗っていくことにしよう。もちろん、運転はお前たちの誰かがやることにする」


「わかりました!」


こうして僕たちはダーウィンズオーダーが保有する車に乗った。運転は郷戸さんがやることになった。


というのも、僕たち6人の中で運転免許を持っているのが郷戸さんと洞坂さんしかいなくて、前は洞坂さんが運転したから、消去法で郷戸さんが運転することになったらしい。


「そういえば無能者デリケイトを殺すのになにかコツがあるんですか?」


黎人がそう聞くと、洞坂さんはすぐに答えた。


「超常保安局が駆けつけてきたら、超常保安局の人を優先して倒すことかな」


「えっ、でも、超常保安局の人たちは殺してはいけないことになっているんじゃなかったでしたっけ?」


「それでもだよ。超常保安局の人たちは無能者デリケイトを守るために戦う以上、彼らを傷つけないように慎重に戦う。だから、超常保安局からやってきた人たちを行動不能にしてから奴らを殺す方が都合がいいんだ。それにね、やってきた超常保安局の人たちを倒した方があいつらも絶望して殺すのが楽しくなる……」


趣味悪いな、洞坂さん……。


そんな会話をしていると、いつの間にか僕らは無能者デリケイトの互助施設にたどり着いていた。


「さあ、陸原と洞坂は武器を持て。今から無能者デリケイト狩りを始めるぞ」


「分かりました」


洞坂さんとアミちゃんはそう言われるとナイフを取り出した。2人が銃を取り出したことを確認すると、僕たちは一気に互助施設に突撃した。


「うっ、うわああ!あの制服、『ダーウィンズオーダー』だ!」


「土下座しますしお金もあげますから命だけは助けて下さい」


「「「黙れ。そしてさっさと死ね」」」


僕たちの制服を見るなり、無能者デリケイトたちは叫びながら暴れ回った。そんな彼らを、精鋭たち3人は無慈悲にも惨殺していく。


しばらくすると、遠くからパトランプがついた緑色の車が走ってきた。


「来たわね……」


「超常保安局の奴らか……」


「こいつらを淘汰するためにも、くたばってもらわないと……」


3人はそう言って窓の方を見ていた。

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