第7話 実戦訓練②

「これで9戦目……絶対に負けられないな」


「ここで負けたらクビらしいですし……頑張りましょう」


「そうだね。3人で先輩たちを倒そう!」


僕らは戦いが始まる3分前に決意を固めると、先輩たちの前に再び姿を見せた。


「3、2、1……開始」


エボルのカウントが終わると同時に、一崎さんは血で鎌を作ってこちらにぶん投げてきた。


「ならばこっちも……」


僕は血の鎌に向かって水でできた弾丸を発射する。すると水によって血が薄まり、形を保てなくなって床に落下した。


やっぱりだ……血は水で薄まる。だから水の攻撃は効くんじゃないかと思ったんだ。さっき3人で会話した甲斐があった。


一崎さんは血でひっきりなしに攻撃を仕掛けるが、こちらも水で作った手袋状の物体でそれに触り、血を薄めて攻撃を無効化した。


「悪く思わないでね、一崎さん」


「ぐはっ!」


次に、僕は接近して水圧で一崎さんを10秒くらい押さえつける。


「一崎 由依果、アウト」


倒れた一崎さんを見たエボルがそう言う。


「よし、じゃあ次も……」


しかし、他の2人(?)はこちらの動きを止めることができる洞坂さんと、3人に分身することができる郷戸さん。どうやって倒せばいいのか、見当がつかない。


とりあえず走って相手の方に向かうと、洞坂さんの目をつい見てしまって動けなくなってしまった。


「うっ……!」


よく見るとすでにアミちゃんも動けなくなっているようだった。しかし、次の瞬間、アミちゃんの姿が消えた。


「なっ……!?まだ10秒経ってないのに?」


洞坂さんが汗をかきながらそういうと、能力が解除されたアミちゃんが先輩たちから逃げ回った。


「や……やっぱり戦えません!ごめんなさい、二人とも!」


「情けねえな、全く。そのうちに俺は3人でこいつをボコボコにするぜ!」


郷戸さんは黎人君の方に3人で向かう。それを見た黎人くんは右腕に精一杯力を込め、これまでよりも大きな刃物に変形させて3人のうち2人を攻撃した。


攻撃を受けた2人の郷戸さんは黒い霧に変化しながら消滅した。残りの一人も激痛を感じたらしく、その場に膝をついて倒れ込んでしまった。


「俺は一度分身を出したら、3時間経つまで次の分身を出せないんだよ。それに、分身の痛みは本体にも共有される……だから、もう、降参だ……」


そう言いながら郷戸さんは床に倒れ込む。


3時間も出せないからあそこまで猶予を設けていたのか、なるほど……。


「郷戸 番三郎、アウト」


「残るは僕だけだね……それじゃ。一番危険な君を潰そうかな。他の2人はまだ止められないし……」


洞坂さんは下を向きながらある程度近づいて黎人くんの方を見ると、その力で動きを止めてしまった。そして、動けない黎人くんに向かって何発も蹴りをいれ、そのまま上から押さえつける。


「雲垣 黎人、アウト」


その声が聞こえると洞坂さんは振り向く。


「うーん、これで残るは実質君1人だね。アミちゃんはあそこで震えてて動けないみたいだし……」


事実上、1対1となった洞坂さんと僕。しかし、これはピンチではなくむしろチャンスだった。


「何を勘違いしているんですか?洞坂さん。今の洞坂さんに僕は止められないんですよ?」


僕はそういうと、水を使って反射面を作り、洞坂さんの動きを止める。やっぱり予想通り、洞坂さんの能力は自分にも効くのか。


そこで僕はアミちゃんを呼び、死角からの不意打ちで洞坂さんを床に倒した。


「洞坂 吟、アウト。9戦目は雲垣、矢橋、陸原の勝利だ」


やった……これでやっと、クビを回避することができた。


「ねぇ矢橋くん……さっきのは色々とずるい気がするよ……」


「そういう洞坂さんだって、俺をあそこまで嬲るのはやり過ぎだと思いますけどね」


「ははは……あれは死なないように調整したからさ」


「笑っていいことじゃないと思いますけど」


「そういえば、なんで私は洞坂さんに睨まれた時も瞬間移動ができたんですか?」


「ああ、あれは僕の能力が筋肉の動きを止めるものだったからだよ。アミちゃんの瞬間移動は筋肉を使わずに動くことができるから効かなかったんじゃないかな」


「なるほど、なんとなくわかった気がします」


「なかなかやるじゃない、洋。これなら私とバディを組むこともできそうね」


「バディってなんですか?」


「ああ、ごめん。その説明がまだだった。私たちは基本的に2人1組のバディと呼ばれるコンビを組んで行動するの。優秀な人にはそれだけ優秀なバディがついてくるようになってる」


「そうなんですね……。でも、あの時は一人で行動してませんでしたか?」


僕は最初に一崎さんを見た時のことを思い出す。


「ああ、あの時は急用だったし、何より私のバディだった人があの日の数日前に死んだの。だからあの時あなたにバディになってもらおうとしたわけ」


「なるほど……」


「それとわかっていると思うけど、明日が初任務だから。だから今日のうちに覚悟をしておいてちょうだい」


「わかりました」


その後、僕は6人の間で色々と会話をした後、食事を済ませたり、お風呂に入ったりしながら明日に備えて心の準備をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る