第3話 特訓①
7月1日、午前5時。
「起きて、洋。起きて」
強い圧力を感じて目覚めると、そこにはすでにいつもの服に着替えた一崎さんがいた。
「お、おはようございます。朝早いですね」
「何を言ってるの。私たちの就業規則では、朝5時までに起きることが決まってる。あと1分遅れたら私まで叱られるんだから」
「そうですか……」
「さあ、早く着替えなさい」
一崎さんはそういうと黒色と赤色のデザインの服を出してくる。軍服か学生服のような詰襟で、縁が赤く塗られていた。僕はパパッとそれに着替えた。
僕が着替えてボタンも閉めたことを確認すると、一崎さんは僕の腕を掴んで強引に引きずろうとした。僕は引きずられないように歩いてついていった。
「訓練場はどこにあるんですか?」
「ここから200メートル先にある」
「に、200メートル!?なんでそんな遠いところに……」
「政府側の連中にバレないようにするため」
「あの……これってあの二人も訓練を受けるんですよね?」
「安心して。うちの訓練場は5組まで同時に訓練ができるようになっている」
椎崎さんは間髪入れずに僕の疑問に答えていく。そうして最終的に僕と一崎さんはドーム状の建物にたどり着いた。
「……到着。もうすでに残りの二人は来ていると思う。早く入って」
一崎さんにそう言われたので、僕は彼女についていく。
ドームの中に入ると、急に涼しい風が吹き込んできた。もう7月だったから、僕としてはかなりありがたい。
「涼しいですね、ここ」
「この空間はうちの異能者が作ったから常に適温に保たれるようになっている。ちなみにここで負傷してもしばらくすれば治るようにできてるから、私も異能を何回も使った日にはここで休むようにしている」
「凄いですね、その異能者は。どんな人なんですか?」
「……そんなにいい人じゃない」
彼女はいつもよりも曇った顔でそう呟いた。
「そうなんですか」
僕はそれだけ言うと、そのまま一崎さんの後をついて広い練習場に向かった。
「今日はここで9時間練習する。休憩時間は11時から12時までに朝食兼昼食をとる1時間休憩を1回だけ。それ以外は17時になるまでずっと特訓だから」
「死んじゃいません、それ……?」
「大丈夫。この場所にいる限り私とあなたは死なない」
(そうなんですか……)と僕は心の中で虚ろに呟く。
「それじゃあ早速始める。まずは基礎的な身体能力から。私の攻撃を避けてみて。能力は使用禁止」
一崎さんはそう言いながらナイフを取り出し、自分の手首を切り付ける。そして手首から出た血を鎌状にして、こちらに襲いかかってきた。
「えぇっ!?」
思わず声が出てしまった僕は咄嗟に避けようとする。しかし、その時に右腕に痛みを感じた。
思わず横を見てみると、信じられない光景に襲われる。僕の手首が斜めに斬られていたのだ。
「う……うわぁ……」
「よそ見してないで攻撃を避けなさい」
そう言いながら一崎さんが引き続き鎌でこちらを攻撃する。その時に腹部に数字の1のような長く深い傷をつけられ、僕は倒れてしまった。
「……最初の練習だから予想してたけど……全然ダメ。まあそれくらいの傷ならここにいれば数分で治るから安心して」
あまりにも傷が深くて、今は呼吸をするのも難しい。でも不思議と意識は遠のいていかない。だからずっと苦しい。
しばらく苦痛に喘ぎながら倒れていると、次第に痛みが引いていくのを感じた。
「もうそろそろ立てると思うから立ってみて」
痛みが完全に引いた頃にそう言われたので、実際に立ってみると、さっきまで傷ついていたのが嘘みたいに簡単に立つことができた。
「え?」
「ほら、私の言ったとおり」
そう言った時、一崎さんは初めてニコッと笑みを浮かべた。その様子は少し可愛かった。
「じゃあ、特訓を再開する。気を引き締めて」
そう言われて攻撃を避ける練習を再開する。しかしそれでも椎崎さんのスピードにはついていけず、何回も切られて倒れてを続けた。
「……もう休憩時間になった。今のうちにご飯を食べに行くから治ったらついてきて」
何回も切られて倒れている僕に向かって彼女はそういう。あまりに斬られたので、この程度の痛みには慣れている僕だった。
再生しきった僕はそのまま立ち上がり、食堂へ向かった。
「そういえばなんでこんなに激しく特訓をする必要があるんですか?いくら相手が
「ううん。あいつらは自分で戦おうとしないから、何十人いたところで心配する必要はない。それより問題なのは奴らを守ろうとする”超常保安局”……」
————
超常保安局、組織犯罪対策課。
「……先日の
「いやはやかなり物騒だねぇ。ついこの前【
「ここ1ヶ月間、奴らの襲撃が多いですね。うちの班も【
「やはり奴ら……ダーウィンズ・オーダーは捜査名称の通り、忌まわしき怪物だ。連中をこれ以上放っては置けない。我々超常保安局が奴らを捜査し、殺さなければ……」
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