或る日のイケメン!

崔 梨遙(再)

1話完結:2500字

 あれは……いつのことだったか? もう10年以上も前のお話。僕は30代の半ばくらいだった。



 僕は、歌もギターも下手だけど、気分転換に弾き語りをすることがある。金曜の晩か土曜の晩。休みの前の晩だ。通りで大声で歌うとストレス発散になる。弾き語りは僕の自己満足。足を止めてくれる人は極めて少ないが、そんなの気にしない。しかし、足を止めてくれる人はゼロではない。足を止めてくれる人は女性が多い。その日も、弾き語りをしていたら、女性2人組が座り込んで聞いてくれていた。


 歌い終わると、なんとなく2人組と雑談。雑談が恋愛の話に進展するのに、さほど時間はかからなかった。2人組は、僕より幾つか年下の亜希、僕よりも1つ年上の麻紀。亜希は美人でスタイルがいい。普通にモテそうだ。麻紀は美人ではないが人の良さが顔に表れて好感の持てる女性。亜希は普通体型。痩せてもいないし太ってもいない。髪は肩の少し上。麻紀は少しだけぽっちゃりさん。髪は長めだが、後ろでまとめている。2人とも、共通しているのは品の良さだ。2人とも上品だ。よくよく話を聞くと、某大企業の社員だった。2人とも、今、恋人がいないらしい。恋人がいそうに見えるのに。特に亜希。亜希は社内恋愛は嫌だと言っていた。


 話が盛り上がったら、2人は僕に、


「合コンのセッティングをしてほしい」


と頼み始めた。おいおい、弾き語りのお兄ちゃんに合コンのセッティングを頼むか? 


「いやいやいやいや、弾き語りのお兄ちゃんに合コンのセッティングを頼むのって、おかしいでしょう」

「でも、崔さんにはイケメンの知人とかいるでしょう?」

「うーん、確かにいるね。何人かいるね。結婚してる人も多いけど、独身のイケメンの知人も何人かいるなぁ」

「イケメンを紹介してくださいよ」

「え! 嫌やで。面倒臭いもん」

「お願いしますよ、会社と家の往復だから、なかなか出会いも無いんですよ」

「そんなことを言われても……ごめんなさい、お断りします」

「そこをなんとか! お願い!」

「お願いしますよ、崔さん」

「わかりました。ほな、セッティングをしてみますわ。イケメン2人ですね」

「やったー! ありがとうございますー!」

「ちなみに、そのイケメンさんは、どちらにお勤めですか?」

「〇〇〇〇(社名)」

「うわ、やったー! 麻紀さん、これはラッキーですね」

「うん、〇〇〇〇って、大企業やもんなぁ」


 ということで、僕は押しに負けた。女性陣から次の土曜日と指定されて、僕が某大企業にいた時のイケメン先輩を呼び出した。2人のイケメンを呼び出したかったが、その時は1人のイケメンの都合が悪く、次の土曜日だと1人のイケメンしか呼び出せない。僕は困った。


 それで、亜希に電話して聞いた。


「次の土曜日やと、イケメン1人しか呼び出されへんねん。イケメン1人でもええかな? やっぱりイケメン2人のセッティングの方がいい? 2人をセッティングするなら少し時間がかかるから待ってもらうことになるんやけど。どうする?」

「早く合コンを実現させたいので、イケメン1人でもいいので、予定通り今度の土曜にしましょう。次の土曜でお願いします」


 亜希が1人でもOKということだったので、亜希、麻紀、僕の先輩の鷹さん(超イケメン)、僕の4人で合コンを実施した。その場はめちゃくちゃ盛り上がった。亜希も麻紀も、先輩が超イケメン(しかも大企業の社員)だったので上機嫌だった。女性陣の盛り上がり方がスゴかった。そして、解散する前に、みんなで仲良く連絡先の交換をした。


 その後、僕に亜希と麻紀からメッセージが届いた。


“鷹さん、超イケメン! 崔さん、今日はありがとうございました! 今日の合コン、めちゃくちゃ楽しかったです-!”

“崔さん、今日はありがとうございました。鷹さん、とても素敵な男性ですね! 今日はとても楽しかったです!”


 女性陣が喜んでくれたみたいなので、僕は満足した。ちなみに、鷹さんもまあまあご機嫌だった。鷹さんは、亜希を少し気に入ったようだった。“やっぱり亜希かぁ”と思った。やっぱり亜希の方がビジュアルに恵まれているからか? それとも、鷹さんは若い方が好きなのか? まあ、今後のことは鷹さんにお任せだ。


 そして、先輩は亜希とデートすることになったと聞いた。亜希からは、


「崔さん、私、鷹さんとのデートにいってきます。本当にありがとうございました」


というメッセージが届いた。これでは麻紀に申し訳ないので、改めて麻紀に1人、男性を紹介しようと思い、麻紀に電話したら着信拒否にされていた。メッセージを送っても拒否になっていた。


「ああ、自分が上手くいかなかったから僕と縁を切ったのね」


と思った。わかりやすい。せっかく1人紹介しようと思ったのに。あの合コンの日に来れなかった、もう1人のイケメンを麻紀に紹介しようと思っていたのだ。多分、麻紀は損をしたと思う。だが、そっちがその気ならもういい。


 それから、亜希は鷹さんとデートはしたが、どうも恋人なるまでには至らなかったらしい。詳しくは聞いていない。鷹さんに任せたのだ。“どうなったんですか?”などと聞くのは野暮だ。どんなデートだったのか? どんな展開になったのか? 亜希と鷹さんしか知らない。それでいい。ということで、亜希にもう1人、合コンに呼べなかったイケメンを紹介しようかなぁと思って亜希に電話したら亜希にも着信拒否された。勿論、メッセージを送っても届かない。結局、亜希も麻紀も、2人ともメールを送っても電話しても拒否になった。ああ、わかりやすい、わかりやすい。


「ああ、世の中ってこういうものなのか~」



 と思った。女性陣は、合コンのセッティングをするなどした僕の頑張りは認めてくれないのね。結果が全てなのね。結果を出せなかった僕は、縁を切られたのね。わかりやすいけれど、なんか、寂しかった。僕が麻紀と付き合えば良かったのだと思われるかもしれないが、その時、僕には彼女がいたから付き合えなかったのだ。僕に彼女がいることは、2人には伝えていた。



 結果を出さないと簡単に縁を切られるということを痛感した。みんな、薄情だ。







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