開拓少女とノアと方舟

@saketoba5te2

第1話『ハローワールド』

ある大陸の果てに巨大な星が降ってきた。

今から二百年前のことである。

その星の魔訶不思議さと、ある一種の運命的な美しさ、そして未開拓性が、多くの人々を呼び寄せた。星に魅せられ、開拓をし続ける彼らのことを____


____ いつしか世界は『開拓使』と呼ぶ様になった!うーむ、何度読んでもワクワクするねー!?」


「チセ、ちょっと興奮しすぎ…。また鼻血出しちゃうよー?」


「ゔ、いかんいかん今度血で本汚したら晩御飯抜きなんだった…。」


とある星のとある国、そのまたとある通りの孤児院で、少女二人は古い本棚を漁っていた。

共に10代前半、歳不相応に未成熟な体躯があまり良い暮らしが出来ていないことを物語っている。

銀色の髪を編んで頭の周りに王冠のように巻きつけてもらっている、鼻血を出している少女がチセ、だろうか。


「まったくチセって変わってるよねー。

女の子はフツーおしゃれとかに気を使うものでしょー?」


「んもー。そんなこと言って、ユリもハジケボウシやら、ユウキュウアゲハなんかの虫好きじゃん!それの方が多分変わってるよ?」


「蝶は綺麗でしょ!可愛いし!」


「おーい、チセー、ユリウスー!先生が帰ってきたぞー!」


「あ、ママ帰ってきた。早く片付けて行かなきゃ!」


「あぁ、まだ髪途中なのに…。」


慌ただしく階段を駆け下り玄関へと走る。

少女らがママや先生と呼ぶ女性は、背の高い知的な眼差しの持ち主の彼女のようだ。

十数人の孤児達を一人で抱えているのだろうか。


「ただいまみんな。今日はいい子にしていましたか?」


「「「はーい!」」」


「ふふ、いい返事ですね。」


「ママ今日の『開拓』はどうだったの?怪我とかないよね?」


「あぁ、チセですか。今日は第一螺旋までしか降りていないので、土産話はそんなにありませんね。せいぜい新種の原生生物を五、六匹見つけたぐらいです。」


「多い時は何十匹も見つかるもんね。でもまだ見つかってる生物が95%未満なんでしょ?

あぁやっぱり“深い“なぁ。ワクワクしてきた。」


        ◇◇◇


みんなで夕食を摂ったあと、皆寝床に向かいいつものようにママの読み聞かせを聴いて眠る。


「____ いつしか世界は『開拓使』と呼ぶ様になりました。しかし…あら?もうみんな寝てしまいましたね。では、おやすみ。」


        ◇◇◇


しかし、或る時突如星は侵蝕を始めた。

開拓から帰って来た人々はまもなく死、もしくは人間性を失った。

また、星からの霧が大気中に充満し、世界の様相を変質させた。

少しずつ、少しずつ、だが確実に惑星はその「星」に蝕まれていった…

だが、そんな事では欲望は止まらない。

開拓使達は畏れつつも、自分の欲に従い開拓を続けた。


星は生きている

魔性の餌を垂らし、静かに獲物を惹き寄せる


星の果てを見た者は、誰もいない


人智の及ばない生態系、機械仕掛けの廃文明、星からの祝福と呪い、理を歪める霧…


前人未到というロマンが、危機一髪の冒険が、未知との遭遇が、人々を星へと駆り立てる


   星の名を『ノア』という。

   人が定めたこの世界を

   定義から覆す渾沌である

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