第56話 エルフ族 その2
その昔、エルフ族は五大種族の一つにあげられていた。
人族は五大種族の中に含まれず、エルフは人の上位互換だと思われていた。
エルフ族の始祖はこの世で初めて魔法を使ったとされ。
魔法と言えばエルフ、といったぐらい彼女たちの魔法は優れている。
才能のある姉弟子もエルフ族の魔法には敵わないかもと言うほどだ。
しかし今のご時世、五大種族という言葉自体が古くなっている。
ある種族は五大種族あらため六大種族としようとの世迷言をいっている。
時代としては、人族が世界各地に存在力を見せ始めた頃だった。
エルフ族のエヴリンは綺麗な容姿をしていた。
薄いクリーム色の髪にわずかな光があたると透きとおり。
象牙色の肌はつやつやで艶めかしいし。
エルフ族の特色の一つでもある長い四肢と長身具合は人間じゃないと思える。
まぁ彼女らは実際に人間とは違うのですけどね。
美々とした容姿はエルフが人間の上位互換と言われていた一因だろう。
そのエヴリンだが、今は倒れている。
他四人のエルフも力尽きたかのように倒れた。
原因は空腹、急いでネット通販にログインし、栄養価豊富なフルーツポンチの缶を購入して彼女たちに与えた。エヴリンは見慣れない缶詰を呆然としたようすで見ている。
「これは……?」
「フルーツたっぷりの非常食です、開封するためのとってを手前に引っ張ってもらって」
説明し、彼女たちにフルーツポンチを食べさせようとするのだが、指に力が入らなくて金属のプルタブを爪でカリ、カリリと滑らせていた。師匠にいって缶詰を開けて頂くことにしよう。
「なんで俺が? まぁいいけどよ! 寿司屋の皿洗いで得たテクニックを見よッ!」
師匠は一瞬にして五つの缶を同時にしゅぽーんと開ける。
エヴリンたちは中にあった甘い蜜たっぷりのフルーツポンチにすすり始めた。
「どうですか? 弱った体には結構効果的な食べ物だと思うのですが」
彼女たちは夢中になってフルーツポンチを食べ、またとない恵みに涙していた。
「女神よ、感謝致します。ありがとうございますオーウェンさん」
「どういたしまして、他にも必要ですよね? 缶製品なので保存も効きますし」
――三万個ぐらい用意しておきましょうか?
色つけてフルーツポンチを用意すると。
案内された集落にいたエルフたちから歓声があがった。
「生き返る、生き返った心地がする……!」
「ありがとう人間、今まで見下しててごめんな」
いえいえ、持ちつ持たれつつですよ。
何せエルフは魔法の発祥、恩売っておいて損はない。
フルーツポンチで感動しているエルフたちに、師匠が大言壮語をし始めた。
「フルーツチンポごときで感動するなよ! オーウェンについて来ればもっと美味しいものが食えるんだぞ! フルーツチンポも確かに美味いが、例えば寿司、ラーメン、焼き肉だって食べ放題だ!」
食べ放題だ! じゃない。
例え相手がエルフだろうと労働の対価としてなら他にも用意しよう。
それとフルーツチンポじゃなくてフルーツポンチね。
師匠のビッグマウスに、森の中にあった集落のエルフたちは喉を鳴らす。
「食べたい、もっと、もっとフルーツチンポ食べたい」
「フルーツチンポよりも美味しいものがあるのか、信じられない」
フルーツチンポじゃないって、フルーツポンチ!
師匠のおかげで恥ずかしい勘違いが定着しつつあるじゃないか。
「しゃあ! みんなで冒険者の国に行っくぞー! そんで俺と飲み仲間に」
「――待て」
一同が盛り上がっていると、奥手から老いたエルフがやって来た。
白髪をオールバック調にして、白い口ひげは父と同じ感じだ。
エヴリンや他のエルフが彼の前で片膝ついて敬意を表している。
「村長、このままでは我らは滅亡してしまいます」
エヴリンの言葉に続いて他のエルフも村長に嘆願していた。
「どうか、俺達に今しばらくの自由をください」
若いエルフたちの声に、村長である彼は悩んだようすだった。
深くため息をつき。
「はぁ、たしかにお主らが言うように、このままだと滅亡するな。しかしだからと言って先祖代々お守り通してきたこの地はどうする。何かを捨てて逃げることはとても簡単なことだ」
村長はみんなに説教をするも、打開策は何一つ告げなかった。
正直、一つの集落をまとめる村長の資格があるのか疑問だ。
とりあえず僕は村長に歩み寄って手を差し出した。
「はじめまして、オーウェンと言います。ちまたでは革命王オーウェンなどと呼ばれ、聞いた話によると貴方たちの集落でもこの名は届いているそうですね。非常に光栄に思います」
「村長のグラハムだ、以後よしなに」
「さっそくお聞きしたいのですが、僕と取引しませんか」
「フルーツチンポのことか?」
「フルーツチンポじゃなくフルーツポンチですから!」
大変な誤解を与えた師匠をキッとにらむと、口笛を吹いてごまかしていた。
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