第55話 エルフ族 その1

「冒険者の国を維持するべく、学校を作ってみませんか」


 冒険者の国の地下にダンジョンが出来た。

 これで冒険者全体の実力が底上がりするのを期待している中。


 秘書のトビトがやって来て、冒険者の国ならではの学校を作ろうと提案してきた。


「いいね、どんな感じなのか構想は固まってるの?」

「女神様から天啓がありましたので、構想はまるで頭にありません」


 まぁ、ええやろ。

 トビトのような兎型の亜人は女神様から時々天啓をもらう。


 その声に従って彼らは生きている性質があった。

 信仰深いといえばそうで、今にして思えば神聖な存在だとさえ思う。


 にしても学校の設立か、そのためには優秀な職員を集めないと駄目だ。

 教育を志し、教え上手な先生たち……中々難しいな。


 一応クエストボードに出しておくか、その名も『学校を作ろう』である。


 それと、進化した僕のスキルで優秀な職員が来るようやってみるか。


 ネット通販画面を開き、事象のメニューをタップ。

 購入したい現象について明記する入力欄が出て来るのでそこに。


『冒険者の国に学校を創設するための優秀な職員がぞろぞろやって来る』


 と記入し終えると10億ポイント要求された。

 これはさすがに100万ポイントで無料クーポンを買って使った方が安い。


 この前まとめ買いした無料クーポンの一枚を使い、さっそくその現象を購入。


 すると――さきほどクエストボードに出していた依頼に応募者がエントリーしていた。


 恐らくこの応募者が優秀な職員その人なのだろうと思った。


「トビト、学校関連のクエストに応募者が来たから会いに行こう」

「仰せのままに、護衛には誰をつけますか?」

「うん、ちょっと待って」


 応募者が逃げないように即座に返信をする。


 細かい条件はないけど、貴方のような熱意ある人を待望していた、みたいな文章だ。返事をしたためて送信し、待ち合わせ場所には先方が今いる冒険者ギルド支部の建物内を指定した。


 どうせならアルベルトやハクレンといった箔のあるS級冒険者を連れて行こう。

 ついでに暇していた師匠も連れて行くとしよう。


 ハクレンと師匠は冒険者の国に作られたシン・メゾン・ド・ヒーローという集合住宅にいたんだけど、アルベルトは不在していた。わざわざ兄弟子を探し出す時間もなければ忙しくしている彼のスケジュールをおさえるのももったいない。


 なので今回は四人で向かうことにした。

 姉弟子が転移魔法を使う前に止めだて。


「ならどうやって行くの?」

「いつまでも僕は子供じゃないって所をお見せしますよ」

「かっこいいね」

「姉弟子のおかげで僕のスキルが進化したのはご存じですよね?」

「うん、見返り期待してるね?」


 進化したスキルは、転移を可能にする。

 ネット通販画面を開き、転移メニューを選ぶとマップが開かれる。

 行きたい先の場所名を記入してあげれば、マップが移動するので。


 あとは行き先を確定し、四人の転移を400万ポイントで購入すればいい。


「……やっぱり姉弟子の転移魔法でいきましょうか?」


 見栄切ったのに途中で手のひらくるりとした僕に師匠は突っ込んでいた。


「さっきまでの得意気な感じはどこいったんだよ! これだからオーウェンは」

「だって一人の転移にあたり100万ポイント掛かるんですよ?」

「はっはっはっは! ハクレンの転移魔法ならタダだしな、オーウェンはケチぃぜ」


 姉弟子は僕の頭をなでて慰めると、指定された場所に転移させてくれた。


 僕らがやって来たのは冒険者ギルドの息がギリギリ掛かっているほどの遠地だった。冒険者の国から五つほどの国境をまたいだ先にある自然国で、その名の通り大自然が特徴的な熱帯地域だ。


 ギルド支部の建物に突然姿を出した僕たちを見て、周囲の冒険者がシンと静まり返る。


「……嘘だろ、まさか本当に」


 で、誰が件の応募者なのだろうか?

 あたりを見回すと、同じ容姿でまとまった五人グループの冒険者がいた。


 きっと彼女たちなんだろうと思い、僕は一行を連れて接近する。


 一番手前にいた麗人に手を差し出すと、彼女はじっとその手を見詰めていた。


「初めまして、学校を作ろうの依頼主のオーウェンです」

「……エヴリンです」


 見受けた所、彼女たちは長寿族の代表的な存在のエルフ族だな。

 冒険者の報告によればエルフ族は基本として人間を警戒している。


 今回は訳あって冒険者登録したのかな?


 エヴリンは意を決したようすで僕の手を握り返し、こう言っていた。


「お願いがあるのですが、応じてくれますか革命王」

「なんなりとお申しつけください、僕のあだ名をよくご存じでしたね」

「貴方は女神に認められた人間として私どもの間でも有名ですから」


 エヴリンを先導に場所を移し、僕らは自然国にある大森林公園へと向かった。

 木々に付けられた縄橋を渡ると、眼下に植物系のモンスターを見下ろせる。


「落ちたら大変なことになりそうですね」

「そんなマヌケはめったにおりません」

「気を付けます、ところでお願いのおおよその内容について聞かせてもらえますか」

「最近になって我々の集落が……」


 エヴリンを含む五人のエルフたちは活力といったものがなかった。

 本来であれば人間を警戒している彼女たちが冒険者登録するのはありえない。


 しかし彼女たちは事情が事情だけに他に助けを求めるしかなかったみたいだ。


「貴方たちの集落がどうしたんですか?」

「食糧難におちいりまして、革命王のお力添えを」


 と言うと、エヴリンは前のめりに倒れ、お腹の音をくぅ~と鳴らしていた。

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