第54話 彼女以上に好きなこと

 ダンジョンが発見された情報を聞きつけてやって来たのか。

 ブリジット様が冒険者の国に来訪なされた。


 冒険者の国に建てたギルドの新本部の応接室に通し。

 お茶を持て成すとブリジット様の瞳は輝いていた。


「オーウェン、たった数日預けただけで見事な街が出来ているじゃないか。さすがだ」

「お褒めのお言葉に預かり至極恐悦です」


 それで、ブリジット様は今回何用で参ったのだろうか。


「今回はお前というよりも、ユーリに会いに来たのだが、どこにいる?」


 ユーリだったら……ブリジット様の顔を見るなり急いで逃げたようだが?

 何かあるのだろうか、僕にできることがあるのならどうにかしたい。


「ユーリがまた悪さでもしましたか?」


 と、ユーリの評判を下げる形でブリジット様に尋ねる。

 これは僕の話術の一つで、あえてへりくだることで相手から情報を引き出す技だ。


「いや、ユーリは聖国アインツベルクの継承権を持っている、私はあの子を次期女王に推薦しようと思うのだ」


「ユーリには無理ですよ、彼女にはそういった経験力も乏しく、国を統治するような才能もないと思います。彼女をもっと有効活用するのなら冒険者が一番様になっていると思います」


「確かにユーリは統率力に欠けるのかもしれない、がしかし、人は時々化けたりするものだ。この世界の人間がある日突然ユニークスキルに目覚めるように。これは私の勘だけどなオーウェン」


 ――ユーリは立派な女王になるよ。


「そしてユーリの伴侶はんりょはオーウェンなのだから、二人で母国の王国と聖国の二つの国を盛り上げて欲しい。もちろんどうするかは自由にすればいい。オーウェン、ユーリのことが嫌いか?」


 嫌いじゃないのは確かだ。

 その昔、将来の相手として見ていたのも事実だ。


 しかし今は? 僕はこれまで彼女に何度かアプローチしたけど、かわされていた。

 今の僕は脈なしだとさとってしまったのかもしれない。


 これは憶測だけど、僕も彼女も、二人の仲とは別にもっと好きなものを見つけてしまったんだと思う。ユーリのことは嫌いじゃない、いや断言するのなら好きだけど、僕はそれよりももっと好きなことを見つけてしまった。


 僕たち二人が恋人になるとしたら、今取り組んでいる好きなこと以上に相手を好きになる必要があった。それは中々難しい話だ。なぜなら僕たちはすでに好きなことで成果を出しているのだから。


 ユーリであれば冒険者としての仕事がそれにあたり。

 僕であれば冒険者の長として世界を変えていくのが好きだ。


 ブリジット様に正直な気持ちを伝えると。


 彼女は悠然な微笑みをたたえ、案ずるなと僕たちを祝福しているようだった。


「だが、お前たちの気持ちはわかった。ならばここは一先ず延期することにしよう」

「ご理解くださったこと、感謝しようにも感謝し足りません」

「私も嫌いじゃあないんだよ、若い者たちが一心不乱に好きなことを追求する姿はな」


 だから今しばらくは僕とユーリの関係は変わることはない。


 僕たちが熱中していることへの熱が冷めるまでか。


 それともその熱以上に彼女を好きになりにでもしなければ。


 僕から彼女に告白する真似はしないだろう。


 姉弟子のハクレンや、最近になって知り合ったラスカル王女にしたとて同じかな。


 ブリジット様は差し出されたお茶を一口で飲み干すと、で、と話しを切り出した。


「で、今は何に夢中なんだ?」

「冒険者の育成ですね、今はそちらに注力しているんですよ」


 夢は大きく、今まで六人だったS級冒険者を最低でも十人まで増やしたい。

 地下に出来たダンジョン探索でさ、A級冒険者が躍起になってしのぎを削っている。


 今、冒険者ギルドでは群雄割拠ぐんゆうかっきょの時代に移り変わろうとしていた。


 しばらくするとブリジット様はご帰宅なされるため席を立つ。

 僕もブラックカードモードで転移の術を覚えたし、送りましょうかと打診した。


 彼女は遠慮使いする必要ないと言い、自分たちで帰って行った。


 彼女がいなくなると同時にトビトがやって来る。


「失礼します、オーウェン、私から提案があるのですが」

「トビトの話であればたいていは聞き入れるよ、なんだい?」

「冒険者の国を維持するべく、学校を作ってみませんか」

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