第52話 一夜にして

 ハクレンのおかげで僕のスキルは三度目の進化を迎えた。

 その名も――ブラックカードモード。


 年会費として100万ポイント(金貨100枚相当)支払うことで利用できる。


 100万ポイントはかなり痛い出費ではあるが、内容は豪華絢爛ごうかけんらんとしている。


 先ず、クーポン券を購入できることが可能になった。

 一番有能な全額無料券でも100万ポイントで購入できる。

 高額な買い物であればどんどん活用していきたい。


 それと商品内容も充実して、キテレツなものまで買えるようになった。


 例えば、それまで姉弟子の力を必要としていた転移魔法による移動。

 ブラックカードモードに加入していればタダで使えるらしい。

 この機能だけでもブラックカードモードに入会する価値はあった。


 早速100万ポイント支払ってブラックカードモードに入った。


 全額無料券をとりあえず十個ほど購入。


 これからやって来る大勢の冒険者の収納施設を一先ず作ってしまおう。


 トビトを連れて外に出ると、日が暮れていた。

 その中でアルベルトはユーリの仲間であるアカネさんに稽古をつけていた。


 暗い所を魔法の明かりで照らし、視界を確保しての夜稽古だ。


「はぁ、はぁ、どうにかなっちゃいそう!」

「この程度で弱音をあげるな」


 アルベルトが誰かに師事することはまずありえなかったので。

 彼のファンである三人も躍起になっているようだった。


「アルベルトに皆さん、お疲れ様です」


 挨拶すると、彼女たちは生真面目な感じに「お疲れ様です」と返事した。

 兄弟子はアカネさんにそのまま続けていろと言うと、僕に近寄る。


「さっき家の中が騒がしかったな、何かあったか?」

「僕のスキルが進化したので、師匠がはしゃいじゃったんですよ」

「また進化させたのか、お前は大した奴だな」


 兄弟子は僕を褒めるとポンポンと頭をなでる。

 後ろにいたアルベルトのファンたちが血涙していたが、一旦保留で。


「今度はどんなことが出来るようになった?」

「様々な特典が使えるようになったって感じですね、中でも凄いと思ったのが」


 中でも凄いと思ったのが、現象を購入できるようになった点。


 例えば通販画面のメニューに新しく追加された『事象』という項目を選ぶ。

 次に購入したい事象の内容を入力してくださいと出るので。


 試しに『C級モンスターが目の前に出現する』と書くと、3000ポイントの金額が査定されたので、購入を押してみる。すると――近くの暗闇から突如としてC級モンスターであるベアウルフが出てきた。


 夜稽古していたアカネさんが自前の刀で一閃、ベアウルフは瞬殺される。そして僕の【ネット通販】にはベアウルフを討伐した代金の8000ポイントが入金されていた。


 アルベルトはその光景に。


「偶然じゃないのか?」

「って思いますよね? じゃあ次は雨を降らせてみせますよ」


 空は夜明かりである月や星を天蓋てんがいに映している。

 ネット通販を通じて『雨を降らして』と記入し、5万ポイント支払った。


 そしたらどしゃ降りの雨が急に降り始め、辺りの土を雨粒がはげしく打っている。

 30年ローンのマイハウスから持って来た傘を兄弟子に貸す。


「……偶然が重なっただけじゃないのか?」

「さすがに疑いすぎじゃないですかアルベルト」

「いくらユニークスキルだからとは言え、内容がありえない」


 これじゃあお前以外のユニークスキル持ちはカスみたいだ。

 アルベルトはそう言うと自虐の意味も込めて不敵な笑みを浮かべ。


 再度、僕の頭をポンポンとなでていた。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、緊急クエストに応募した大勢の冒険者が新国に参加するためにやって来た。

 筆頭はメリコ、先日の闇ギルドの襲撃にさいしA級に昇格した彼女だった。


「坊ちゃま、言われた通り有象無象を連れてやって参りましたが……」


 メリコは冒険者の国の光景を見て歯切れを悪そうにしていた。


「何か不満でも?」

「私はてっきり」

「てっきり?」

「未開拓の土地を耕す所から始まるものだと思っていたので、この光景に引いただけです」


 そんなこと言われてもさ、僕たちも頑張ったんだよ?


 やって来た当初こそ、ここは荒れ果てた大地で、モンスターで溢れかえっていた。

 僕たちは三千人以上の冒険者を迎い入れる準備に必死で、一夜で準備した。


 たしかに、深夜三時ごろからみんな妙なテンションになっていて。

 多少暴走していたことは認める。


 師匠は「俺達のキングダム伝説の夜明けぜよー!」と意味不明なこと口走ってたし。


 でもその甲斐あって、僕たちは一夜漬けで一つの都市とも呼べる街を作っていた。

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