第51話 三度目の進化

 明日から本格的に冒険者の国作りを始動させる。

 そのための緊急クエストも本部支部問わずギルドに通達してある。


【緊急クエスト:冒険者の国をみんなの手で作ろう】


 と言った依頼がクエストボードに表示されているんだろうな。


 冒険者の国に集ってくれたのは師匠とその弟子四人。

 それからユーリの仲間三人と亜人のトビトだ。


 僕の仮住まいはここでいいとして。

 他のみんなの宿泊施設も用意しないと駄目だ。


 三千人にのぼる冒険者を収容できる施設ともなれば。

 それなりに【ネット通販】の購入ポイントが掛かる。


 そこで登場するのが月に一度抽選で配られるクーポン券だ。

 全額無料が最高の代物として、一割減額が外れの部類に入るのかな。


「師匠、ちょっとお聞きしたいんですが」

「なんだよう〇ち! じゃなかったオーウェン」

「今いる面々で一番強運なのって、師匠じゃないですか。ちょっとお願いがあって」

「だっはっは! 生まれて初めて言われたぜ? たいていは俺のこと疫病神あつかいするしな」


 しかし、この情報はトビトの超嗅覚によって判明していることだ。

 師匠を呼んだのはクーポンの抽選で一等の全額無料を当ててもらうためだった。


 クーポンの抽選券は今の所二十四枚ある、できるなら一回で引き当てて欲しい。


 師匠にクーポンの説明をすると、面白がったユーリやハクレンが寄って来た。


「勇者イクシオン、運命の瞬間って奴です」

「頑張ってね師匠」


 弟子たちはここぞとばかりに師匠をあおっていた。


「ああ、見ておけよお前ら、俺が、俺こそが!! 勇者なんだぁあああああああ!」


 ぽちっとな。

 クーポンの抽選専用のモニターにそなえられたボタンを押すと。

 モニターの中でトビトのような兎の亜人たちが演出をし始める。


 トロンボーンを吹き鳴らし、亜人による楽団が陽気な音楽を奏で始めた。


 そして小太鼓によるドラムロールが――ズドドドドドドド、と鳴らされると。


 中央に一匹の亜人がやって来て、バババンというジングルと共に『半額』と書かれた紙を提示した。半額は当たりな方ではあるが、今回掛かるポイントのことを考えるともう一声欲しい。


 師匠はたしかめるため、僕に結果を聞いた。


「半額ってどうなんだオーウェン?」

「当たりの方ではありますが、一等賞ではない感じですね」


 そしたら次はあたしがやりたいとユーリが言い出した。


「いいよ、ぜひ無料券当てて欲しいな」

「無料券引き当てたら何かおごって、ね!!」


 ぽちっとな。

 そして再びトロンボーンの演奏から入り、ドラムロールと共に抽選結果が出る。


 ユーリが引き当てたのは『三割おまけ』だった。

 結果にユーリは肩を落としていた。


「く、父さんよりも下の結果っていうのがしゃくね」


 次は二人の結果を見ていたハクレンが名乗り出た。


「お次、いってもいい?」

「いいですよ、たしか姉弟子は過去に一回やってましたよね?」

「うん、あの時は無料券引けたよ?」


 そうだったっけ? まぁ無料券引いてくれるのなら誰でもいい。


「では頼みました姉弟子」

「……行け」


 ぽちっとな。


 三度トロンボーンのソロパートから入り、まずは予兆を感じさせると。

 ビッグバンドによる強調的な三つの音がパーラーラ! と盛り上げる。


 リズミカルでとても明るいファンファーレのメロディが鳴り響く中。

 曲調をつかんだ師匠は早くも独自の合いの手を入れていた。


「おい! おい! おい! おいおいおーい! いいぞー、大当たりいっちまえ!」


 師匠が盛り上がる中、抽選結果の紙を持った亜人が中央にぴょこぴょことやって来て。

 一度背後を向き、お尻にあった丸い尻尾をフリフリとさせる。


 そして姉弟子が引き当てた抽選結果『一割おまけ』の紙を突き出した。


 結果を受けた師匠やユーリは姉弟子を鼻でわらっていた。

 自分よりも下の結果がいることへの優越感から気持ちにゆるみが出たのだろう。


 しかし――抽選結果の紙を持った亜人は指を横にチッチッチと振り始め。

 再抽選が始まった。


 終わったと思いこんでいた師匠は曲が再演奏されたのに不思議がっていた。


「何が始まったんだ? どういうことだってばよオーウェン」

「再抽選です、経験上、大当たりの可能性が強いですね」


 ハクレンは小さな声で「よし」といい、他二人に勝者の余裕をうかがわせる。


 さいど抽選結果の紙を持った亜人が画面中央にやって来て、尻尾をふる。


 そこで画面は中央の亜人にズームして抽選結果である『フリーズ!』を発表していた……フ、フリーズ演出だって? こんな事、今まで一回もなかったぞ?


 フリーズ演出は文字通りゲームそのものがフリーズ――こおりついたかのように止まる演出のことだ。


「おいおい、壊れちまったぞ」


 師匠が言ったように一見は壊れたかのように映る。


「そう言えば、昔師匠が言ってたじゃないですか」

「何を?」

「僕のスキルは使い込むことによって進化するって」

「お、おう、そう言えばそんなことも言ったな」

「もしかしたら今、スキルが進化しようとしているのかもしれません」

「ナ、ナンダッテー!?」


 僕の推測は的を射ていたようで【ネット通販】から謎の女性の声がした。


『おめでとうございます、厳選な抽選の結果、ブラックカードモードが追加されました。説明を受けますか?』


 ということで、僕のスキルは通算三度目の進化を迎えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る