第50話 在りし日のカレーライス
お花見を終えた後日、僕はブリジット様のご招待に預かった。
彼女は冒険者ギルドのために特別な土地を与えてくれるらしい。
それは聖国アインツベルクと、ラスカルを代表とする王国の国境で。
用意された土地は国境を聖国側にまたいだ場所だった。
ぱっと見、ひと昔前、父が治めていた領地と同じ光景だ。
土は豊穣、水量は天候次第、緑もそれなりにあってモンスターもうじゃうじゃいそう。
「この領地はお前の好きにするといい」
「本当によろしいのですか? 見返りとか」
「もちろん見返りは要求するが、おいおいでいい」
この土地を渡してくれたのは、ブリジット様達にも背景があるからだ。
ブリジット様が用意した土地に僕達、冒険者ギルドがのれんを構えれば。
王国側の侵攻を未然にそしできる。
例えば他にも、緩衝となる冒険者の国を一つはさむことで。
「関税は撤廃してもらうぞ、冒険者の国は我が国の一部みたいなものだ」
国家間どうしでの関税の免除も可能にしていた。
これによって貴族による不正な権益にいちいち目くじら立てなくてもいい。
何より手つかずすぎる場所だもの。
ぶっちゃけると、自分の方で管理難しくなったから後はよろしく。
そう言われているようなものだ。
同行していたトビトは道端に自生していた草の香りをかぎ。
「十分すぎる立地だと思います」
太鼓判を押しているが、本当かぁ?
同じく一緒に来ていた師匠が酒瓶を手に高笑いする。
「オーウェンが一国の主になるなんてな、夢にも思ってなかったぞ」
「ですね」
若い実業家に亜人に引退勇者と、ブリジット様はバラエティに富んだ僕らに微笑んでいるみたいだった。
「では後のことは頼んだぞ、と、そうだったイクス」
「俺をお呼びかな姉御?」
「お前は来年の花見に参加しなくていいぞ」
「えー? 聞こえなーい、たとえ姉御の制止があっても、俺は無理にでも参加する」
言うことを一切聞かない師匠にブリジット様は舌打ちしていた。
ブリジット様はその後ご帰宅なされ、僕たちは荒れた大地に取り残される。
とりあえず、今日からここは冒険者の国となる。
先ずは土地を開拓する必要がありそうなので、冒険者に依頼を出しておこう。
師匠はそこら辺に生えていた木をスパっと切り倒し。
いつかどこかで見た即席の切り株椅子を作って座り酒をあおり始めた。
「で、ここからどうやって国をつくっていくんだ? そもそも国作りってどうやるんだろうな」
「今日の日のために冒険者をざっと三千人ほど用意してあります」
「ホントかよ? でもそいつらの姿が見えねーなぁ、どこにいるんだ?」
「明日には冒険者たちによる冒険者のための素晴らしい国作りをお見せしますよ」
ということでログイン。
僕は【ネット通販】を開き、手慣れた操作で結界の魔道具を購入。
十メートルほどの四方に結界の石を置き、安全な領域を確保した。
その後は30年ローンのマイハウスを設置し、トビトを連れて中に上がる。
「俺を忘れんなよう〇ち! じゃなかったオーウェン」
師匠も懐かしの家に上がり、さっそくお風呂につかって酒気を飛ばしていた。
「お風呂空いたぞ、って何してんだ?」
「カレーを作ってるんですよ、久しぶりに」
「おお、アルベルトやハクレンの好物じゃねーか」
「ええ、アルベルトやハクレン、それからユーリも直に来ますよ」
ハクレンに先日お願いされていた手前ではあるし。
今日は久しぶりにカレーを作っている。
最初にやって来たのはユーリだった。
「ハーイオーウェン、勝手に上がっちゃってごめんね」
「別に問題ないよ、そっちの彼女たちは?」
ユーリの後ろには数人の女子冒険者がいて。
彼女たちは緊張したようすでそれぞれ自己紹介をした。
「エレナです、ユーリとはパーティー組んでます」
「右に同じくポーラと申します」
「アカネです、よろしくお願いします」
エレナさんにポーラさんにアカネさんだな、オーウェン、覚えた。ユーリもそうだけど、僕は初めて会った冒険者に日頃の感謝を伝えるため【ネット通販】の画面を開いた。
「皆さん欲しい物ありますか? よければ何かプレゼントしますよ」
三人にそう言うと王国の店でもまだ取り扱いが少ない貴重な品から。
剣と魔法のファンタジー世界ならではの魔導具をそれぞれプレゼントした。
三人はお礼をいいつつ、アルベルトやハクレンが来るのを待っている。
前衛をになっているサムライ職のアカネさんは室内に充満したカレーの匂いに。
「美味しそうですね、何をお作りになっているのですか?」
「カレーと言います、食べたことないかな? 都では割りとお店あると思うけど」
「私はないです、食事に関しては保守的でして」
「僕も以前はそうでしたよ、奇遇ですね」
他の二人もカレーはそこまで口にしたことがないようだ。
であれば、比較的受け入れてくれるはずだ。
何せカレーは日本の国民食、と言っても過言じゃあない……よね?
「オーウェン、お風呂借りるわね? ここに来るまでに汗掻いちゃった」
「あ、いいよ」
酒瓶をあおり、にやけ面で様子を静観していた師匠がユーリに声を掛けていた。
「なんなら一緒に入るか?」
「冗談言わないでよ、じゃあお風呂借りるね。三人も自由にしてていいと思うわよ」
ユーリがお風呂にいくと、他三人はトビトを見ていた。
パーティーの中では魔法職と鍵職担当のポーラは彼ににこにこと微笑んでいる。
「トビトさんは相変わらず可愛い」
「と言われましても、自分ももういい年です」
「おいくつでしたっけ」
「今年で三十五になります」
おまけにトビトには子供が二人いる。
奥さんのルビーさんと交代交代で面倒を見ているようだ。
トビトの子供には早く一人前になって欲しいので、僕も応援している。
次第にハクレンがアルベルトを連れてやって来たようだ。
二人は玄関のチャイムを押し、室内に懐かしいメロディが流れる。
愛弟子の来訪に師匠が対応していた。
「ようお二人さん、あがっていけよ、ここを自分の家だと思いたまえ!」
「馬鹿なこと言わないでくださいよ、オーウェン上がるぞ」
アルベルトが師匠の招きに応じて二階のリビングにやって来る。
そしたら室内にいたアルベルトの熱烈なファンが黄色い声を上げた。
「「「あ、アルベルト様!?」」」
サムライ職のアカネさんは呼吸を浅くし、アルベルトの視線にもだえ。
「アルベルト様と同じ室内の空気吸っちゃってる!」
魔法職担当のポーラさんは口に手をあてきょどりつつ。
「そう考えると、私達の吐いた息をアルベルト様が吸ってるってことぉ!?」
二人の極まった妄想に冷静だった眼鏡キャラのエレナさんは立ち上がる。
「よしなさい二人とも、アルベルト様の御前ですよ」
しかし言っていることはアルベルトのファンのはんちゅうだった。
えっと、今家に何人いるんだ?
僕、トビトは食えないから除いて、師匠、兄姉弟子の二人、ユーリとそのパーティー三人だから。全部で八人か。カレーライスに期待していたかもしれない兄姉弟子には悪いけどおかわりはなしだ。
ユーリがお風呂から上がって来て、僕たちは食卓を囲んだ。
カレーはみんなのお腹を満たすための準備は出来ている。
アルベルトのファンの一人、万能職のエレナはカメラを用意していた。
「家宝にさせてください」
「……食事中だ、出来れば撮影は止めてくれ」
「も、申し訳ありません」
アルベルトの頭にファンサービスなどという言葉はない。
では。
「いただきます」
師匠やアルベルトにユーリは慣れた様子でカレーを口に運ぶ。
ユーリの仲間三人もならってスプーンでカレーライスをすくっていた。
「あ、美味しいですオーウェンさん」
「ありがとうアカネさん」
さっき、食事に関しては保守的だといっていたが、お気に召してくれたようでなによりだ。
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