第44話 逆転

 冒険者の国を建設させ、国家運営をしたい。

 と言うのは前世の時からたしなんでいたライトノベル的な夢だ。


 この夢は長年温めてきた計画の一つで。

 そのための大陸を用意して欲しいというクエストまで出しているくらいだ。


 熟練の冒険者は目を輝かせる新米によくある釣りだと吹聴するが。

 依頼を出している僕はマジと書いて本気なんやで?


 占いという特殊技能を持っているハクレンによれば、未発見の大陸がこの世にはある。

 ハクレンの言葉を信じて今でもこの夢を叶えるために、冒険者を募っている。


 現在の冒険者の数は五万人前後。

 この間の闇ギルドの襲撃事件で千人ほど減ったが、まぁまぁいるな。


 だとしても建国するにはまだ人数が足りない。

 三人の王子の協力を仰いで冒険者の数を爆増させてみたいと思い描いた。


 翌日、昨夜は実家で寝泊りし、身支度を整えてハクレンと挨拶を交わした。


「何か企み始めた? 欲深そうな顔してるよ?」

「そうかな? とりあえず王子たちに会いに行こう」


 ハクレンの転移魔法で王子たちに用意した別荘まで一瞬で移動する。

 何故か青王子が寒さに堪えるよう、別荘の外にいた。


「どうしましたラスカル様?」

「オーウェン殿、おはようございます」

「おはようございます、なぜ家の外にいたので?」

「外の寒気に浸かっていました……私なりの自然浴です」


 そうは言ってもラスカル様は寒そうだ。

 堪えているのだろうけど、ここにいて風邪をひかれても困るし。


 僕は彼女の手をとって別荘の中に戻るよううながした。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、風邪引いちゃったらこの時期長引きますよ」

「オーウェン殿に手を取って頂いて……よかった」


 ハクレンからの嫉妬のオーラを感じる。

 僕の冒険者手帳にハクレンからのメールが届いていた。


『浮気はだめだよ』


 浮気も何も、僕は姉弟子とお付き合いしているのか?

 言及するのも怖いので、右から左に流す。


 別荘内には三男の黄王子がかしこまった感じで座っていて。

 赤王子は順応したかのように我が物顔でいる。


「オーウェン殿、俺をこのまま冒険者にしてくれよ」

「えっと」


 僕は昨日、自室で三人の待遇を考えていた。

 三人の人望はまだあると言えばある。


 だからイーグル様を言われるがまま冒険者にすれば、冒険者が増えるだろうし。


 でも何か引っかかる。

 イーグル様から父同様の裏を感じるのは気のせいなのか?


「簡単なことだろ? 俺は王位継承権を放棄したも同然だし、次期国王にはラスカルがなって、ルッツは医学で国に貢献して、それで三者三葉にハッピーになれる。強いて言えばオーウェン殿にはラスカルを娶って欲しいってことだけだ」


 最後の一言にラスカル様があせったようすだった。

 ハクレンは嫉妬からまたメールしてきたようだし。


「……じゃあ、三人にはテストをして頂きましょう」


 ルッツ様は急なテストに不安がっていた。


「ぼ、僕は兄上たちとはちがってまだまだ未熟の身、テストに務まるかどうかわかりません」

「問題ありませんよ、テストって言っても、故郷に伝わる簡単な料理なので」


 今いる別荘に食材を取り寄せて、サンドイッチでも作ろうという提案になる。

 三人の中でもイーグル王子がノリノリで、進んでサンドイッチ作りに挑戦した。


「ラスカル、オーウェン殿の胃袋をつかんでみせろよ」

「しつこいですよ兄上、オーウェン殿もお気になさらず」


 気にしてなんかないさ、僕が怖いのはハクレンだ。

 ハクレンは瞳をじょじょに鋭くさせて、視線で射殺そうとしている。


 初めてのサンドイッチ作りに挑戦したルッツ様は僕の助けを求めていた。


「オーウェン様、これはどうすれば?」


「用意された食パンを薄く切って二枚用意します、そしたら一枚を下に引いて、その上にルッツ様の好きな食材を乗せてみましょう。父の領地の特産品になりますが、まぁどれも美味しいので何と組み合わせても上手くできますよ」


 ただ口当たりをよくするためにマヨネーズやバターを使うとなおよしだ。


 待つこと二十分、三人の王子はそれぞれ独自のサンドイッチを作った。


 赤王子のイーグル様はベーコンやレタスと言ったテンプレートな一品を。

 青王子のラスカル様はベリージャムを織り交ぜたスイートな一品を。

 黄王子のルッツ様はスクランブルエッグを挟んだ栄養価ある一品を。


 それぞれのサンドイッチを作って頂き、実際に食べてもらった。


「美味しいですかルッツ様」

「とても、自分の手で作ると何倍も美味しく感じるものですね」

「同感ですよ……さて、失礼とは思いましたが」


 ――王子たちのユニークスキルはこれで使えなくなりました。


 僕の言葉にイーグルは目を見開き、ラスカルは席を荒立てる。

 ラスカルは穏やかだった表情を真剣なものに変えると、怒った声音で言っていた。


「まさか、今のサンドイッチにユニークスキル封じのものを入れたのか?」

「その通りです」

「なんてことしてくれるんだ! これじゃあ私は……!」


 ドン! と行き場のない怒りにラスカルは机に手を叩きつける。


「心配することはないんじゃないですかラスカル様、兄であるイーグル王子も、弟様であるルッツ王子も、王位継承権を放棄すると言っているのですから。貴方が次期国王になることはこの時点で確定的ですよ。僕の父もラスカル様の後援者の一人としてそれを望んでおります」


 三人の王子の内、長男と次男の二人はユニークスキルを持っていた。

 その中でも特に厄介だったのが、ラスカル様のユニークスキル【逆転】である。


 調べた限りだと【逆転】は事象を逆転させるといったとんでもない代物で。

 ラスカルは国王の座を不動のものとするために、あえて王位継承権を放棄したようだ。


 自分以外の兄弟が就いた玉座を、ユニークスキルで事象を変え。

 彼女は不動の地位を得ようとする算段だったらしい。


 ラスカル様の性別が女性であるのも、ユニークスキルのせいだった。


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