第42話 放棄したい

 三人の王子に会いたいと言われ会ってみたのがそもそもの始まり。

 王子たちはそれぞれ違った観点から。


「王位継承権を放棄したい」


 と言ってきた。

 人目のある都ではなく、父の領地にあるのどかな喫茶店を指定してよかった。

 例え深い理由があるにしても、王族がこの台詞を口にするのは事だから。


 先ず、赤いモダンな癖毛が特徴的な長男のイーグルの理由がこうだ。


 ――例え玉座に着いたとしたら、人生損しそうだから。


 言いたいことはなきにしもあらずだが、一先ず保留にしておいて。


 次に綺麗な青い髪の持ち主で、容姿端麗な次男ラスカルの理由としては。


 ――そもそも私は性別的には女だし。


 驚愕の内容すぎて隣にいたアルベルトもちょっと戸惑っていた。


 最後に黄色い髪の持ち主で、まだ六歳の幼い三男のルッツの理由は。


 ――僕の将来の夢はお医者さんになることですので。


 彼は容姿からして利発そうで、放棄したい理由も実業家の僕からすれば尊い。


 三人の王子はその独特な髪色から赤王子、青王子、黄王子と呼ばれ。

 国民からの人望も篤い。


 ルッツは僕や他二人の王子を前に、王位継承権の放棄を堂々と宣言していた。


「ですので、僕は王位けーしょーけんをほうきします」


 長男と次男(?)の二人は末っ子の彼の発言を怪しんだ様子だ。

 イーグルは独自の炯眼を光らせて、黄王子のルッツに聞いていた。


「ルッツ、誰からそう言えっていわれた?」

「誰から? どういう意味ですか兄上」

「……まぁいいか、俺もちょうど王族であることを辞めたかった所だし」


 イーグルはどこかやさぐれた様子で次男のラスカルにすべて押し付けようとする。


「王の務めはラスカルに任せた」

「そうなった場合は貴方を王室への侮辱罪に問い、一生牢獄に入れてやる」

「こわっ」


 ラスカルは女性性に富んだ長いまつ毛の目を瞬かせ、麗しいため息を吐く。


「それにしてもこの店にあるものは美味しいですねオーウェンさん」

「え、ええ、ここにある商品はすべて父の領地の生産物になります」


 苺のショートケーキに各種果物を取り扱ったデザートにコーヒー豆。

 紅茶の茶葉に小麦粉、はちみつにお砂糖などなど。

 どれもこれも両親自慢の生産品だ。


 青王子ことラスカルはのどかな景観が売りのこの領地に見惚れた様子だ。


「私もこういった静かな場所で、生涯安穏に暮らしてみたい」

「素晴らしい展望だと思います」

「オーウェンさんにはぜひそのためのご助力をお願いします」


 お断りしますと、はっきり言えればいいのだが。

 もしもここで三人からの打診を拒否すれば父の立場が危うくなる。

 しかし三人に助力して王位継承権を放棄させたとしても。

 それはそれで他の貴族からの言及を逃れられない。


 はぁ、家は元々中間管理職の傾向がつよかったけど、つらい。


 アルベルトは僕の心情を察したのか、三人に質問していた。


「一つよろしいですか、何故このタイミングで王位継承権の話が上がったので?」


 答えたのは長男のイーグルだ。


「どうやら王である父の体調が優れない、父は近々王の役目を引退するおつもりだ。これはまだ口外してない情報なので他言無用にしておくといいだろう。そちらにいる新聞社も同様だぞ?」


 今日の面会を記事にすることで僕は知名度の向上を図ろうとした。なので先日ハクレンとの熱愛報道の掲載を打診してきた新聞社にも同行してもらったんだけど、ちょっと当てが外れたみたいだ。


「ルッツ様は医学の道を志されているみたいですが、お二人はどのようにお考えなのでしょうか」


 まさかこれまで通り暮らしていけるとは思っていないだろう。

 長男のイーグルは不遜なたいどで口早に答える。


「冒険者になろうかな、俺、きっとその才能があると思うんだよな」


 その台詞に警護にあたっていたアルベルトがあからさまにため息を吐いた。


「ではラスカル様は?」


「当初の私の考えは兄上の補佐にでもあたるつもりだった、我侭な王をたしなめるのが私の務めだと。これは現国王の父上からも打診されていた内容です。私は王になりたくても、王になれない体質ですので」


 三人と面会した上で思ったことがある。

 一人の国民として、この三人には王の座について欲しくないかなって。


 長男のイーグルは自分のしたいことをだけを口にする傲慢な性格で。

 次男のラスカルは温和で冷静な人柄だが、野心に欠けるし。

 三男のルッツに関してはまだまとまった自我がなく、意志力も乏しい。


 彼らは一様に王の器ではない気がするな、って個人的な見解。


 イーグルは奔放な感じで、僕の肩を引き寄せた。


「聞いたところオーウェン殿は一人っ子のようだな、俺の弟になってみるか?」

「はい?」

「ラスカルと結婚でもすれば俺の弟になれる、そうだろ?」


 はぁああ? とうとつすぎて何がなにやら。

 青王子ことラスカル様はその話に目を伏せていた。


「御冗談を仰いますな兄上、オーウェン殿もお困りですよ……ね?」

「ここだけの話、ラスカルは以前からオーウェン殿のファンだったんだ」


 それはそれは、光栄です。




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